『番外編』
誰にも言えないバレンタイン【2】
「あ、あの……」
「あぁ、ごめんね。今呼んでくるから」
自分から言い出した手前、今さら断るわけにもいかない。
教室の中で談笑している祐二はいつもと変わらない、いつもと変わらない俺の好きな祐二をこの子が告白をするのを分かっていて呼び出す。
本当は嫌だ。
朝から祐二がチョコをいくつか貰っているのを知っている。
でもそれは大抵が義理チョコでその場にいた俺も一緒に貰ったりして何とも思わなかった。
でも……本命チョコはダメだ。
高校に入って初めて出来た彼女と別れてそろそろ三ヶ月、きっと祐二は新しい彼女が欲しいと思っているはず。
そんなタイミングでこんな子が告白でもしたら……。
体の奥から嫌な物がどんどんせり上がってくる。
「あ、あの……コレ、東雲君に渡して……貰えますか?」
教室の中に入ろうとしていた俺は後ろからブレザーを引っ張られ振り返るとその子は言いにくそうに俺に持っていた小さな箱を差し出した。
良かった……。
正直ホッとした、でもそんなことを顔に出せるはずもない。
「直接渡さなくていいの?」
「う、うん。し、東雲君……楽しそうだから。邪魔したくないし……」
あぁ、この子本当に祐二のこと好きなんだ。
俺はそう思いながら、教室の中の祐二を見た。
明るい茶色の髪、表情がクルクル変わる大きなアーモンド型の瞳、上着の下に着ているブイネックのセーターの袖が上着の袖からはみ出して指の辺りまで覆っている。
その手を大きく身振り手振りしながら話をするのは昔からの祐二の癖。
祐二がいつも俺に劣等感を抱いているのは知っている、でも誰よりも人を惹きつける魅力を持っているのは祐二の方だ。
きっとこの子はそれを分かっているんだ。
「そう? じゃあ渡しておくね」
差し出された箱を受け取ってニッコリ笑った。
その子が頭を下げてから駆け出してどこかの教室へ入っていくまで見送った。
教室に入りかけて手に持っていた箱に視線を落とす、小さな箱の下に隠れるようにあった小さなメッセージカードを見つけた。
「篠田ー! まーた貰ったのかよぉ!」
誰かに声を掛けられて曖昧に笑みを返しながら手の中にあった小さなメッセージカードをポケットの中に押し込んだ。
頼りない薄い紙は手の平の中で何の抵抗もなく丸くなる。
「貴ぁ〜、それ〜何個目なのぉ?」
祐二の横にいる日和が俺の袋を見ながら楽しそうな声を上げた。
「さぁ、数えてないから」
「なぁーにが、数えてないから……だ。スカしてんじゃねぇぞ! 俺が数えてやるっ!」
負けず嫌いの祐二が俺の鞄の口を大きく開けている。
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