『番外編』
君が気付かせてくれた【1】
「俺さーこの前ついにヤッちゃったんだよねー」
「マジで!? どーだったよ!」
「もう最高! お前らも早く男になれよー」
ギャハハハッと大きな笑いが店内に響いた。
狭いファーストフード店に不釣合いなほどの大きな声に他の客が顔を顰める中、高校生のグループに背を向けて座っていた俺は冷めたポテトを口に運びながら小さく笑った。
(若いねぇ……君たち)
若いというほど自分と年が離れていないことはこの際おいておくとして。
耳を傾けなくても聞こえてくる彼らの会話の内容は自分にもよく憶えのあることだった。
誰よりも早く大人になりたくて、誰よりも早く男になりたくて、誰にも負けたくなくて……。
抱いた数が自分の勲章になると思っていたあの頃の自分達の姿と重なる。
初体験を済ませた男の自慢話はまだまだ続きそうだったが、残っていたコーヒーを飲み干して席を立った。
空のトレーを片手で持ちながら高校生が座るテーブルの横を通り過ぎる時、チラッと視線を落とすとやたら前髪を気にしている白いポロシャツ姿の男子高校生がふんぞり返って話しているのが見えた。
(分かるよ、分かるけどねぇ……その気持ち)
意識していないと緩みそうになる口元を引き締めながらゴミを捨てていると男子学生のグループの一人がこっちを見ていることに気がついた。
一瞬バレたのかと思ったがすぐ聞こえてきた声にあぁなるほどと頷きたくなる。
「あれ、ぜってぇ……ホストだよな?」
本人は囁いているつもりだろうその声は俺の耳にしっかり届く。
(どっから見てもホストだろ)
中塚陸、二十歳、勤務先『club one』、ご想像の通りホストクラブで働くホスト。
明るい蜜色の髪をかき上げると、ホラやっぱりという声が聞こえる。
「きっとやりまくってんだろうなぁ」
「当たり前だろ。きっとやり捨てだぜ?」
(おいおい……どんな偏見だよ)
世間のイメージがどんなものか気にしたことはない、だがこんな言葉を聞くとさすがに呆れてしまう。
ホスト全員がそうだとしたら誰もホストクラブに寄り付かなくなるし、水商売だからといって節操がないと誤解してもらっても困る。
内心ムッとしたが今日はすべてを許せてしまいそうなほど機嫌がいい。
「いいよなー! 俺もめちゃめちゃやりてぇー!」
「バーカ、その前にさっさと童貞捨てて来いよっ、もう相手とか誰でもいいだろ!」
「お姉さまにパックリ食われて来いよー」
ギャハハハッとさっきよりも大きな笑い声を背中に聞きながら店を出た。
少し前の自分だったらその意見に大きく頷いていたはず、それというのも初めての相手は二歳年上の女性で彼女ではなかったから。
あぁ……懐かしい、確か比佐子先輩だった。
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