『番外編』
君と溺れたい【3】
「んー……もう、麻衣……どうしたの?」
「湯! 湯!」
その声に溺れそうになっていた理由を知った。
さっきから出しっぱなしの湯がいつの間にか大きなバスタブを満たしあふれ出している。
「どうりで熱いと……」
「そんなこと言ってないで! 手離しててばっ」
出しっぱなしの湯を止めようとレバーに手を伸ばそうとする麻衣の腰に俺はしがみ付いたままクスクス笑う。
さっきまでイチャイチャした雰囲気はどこへ行ったんだ?
湯が溢れ出るバスタブの中で再び暴れ始めた麻衣の腰をガッチリ掴んだ。
「ちょっとぉ! 陸ってば!」
これのどこがロマンチックな恋人のクリスマス?
それなのになんだこれ……すげぇ幸せ。
「お湯! もったいないでしょ! バカッ! 離してってばぁっ!」
湯を止めようと必死にもがく麻衣。
バシャバシャと激しく湯が波立つ。
「アッ!」
大きく動く麻衣の体を押さえている腕から一瞬力が抜けると麻衣の体が俺の腕の中から飛び出していく。
麻衣も急に体が自由になったことに驚いた表情で俺を振り返った。
激しく暴れていた麻衣の体は勢いがついたまま浴室の壁に向かっている。
ヤベッ!!
まるでスローモーションのように傾く麻衣の体を俺は夢中に抱きしめた。
そのままバランスを崩し二人の体は大きな水飛沫を上げながらバスタブの中に沈んだ。
「……ゴホッ! ゴホゴホッ!」
湯から顔を出してむせ返りながら腕の中の麻衣を確認する。
同じようにむせながら俺を見た麻衣がプッと吹き出した。
「大丈夫? 頭打ってない?」
ビショビショに濡れた髪を掻き分けるようにぶつけていないか確認していると、麻衣はそのまま俺の体に抱き着いて今度は俺が下敷きにバスタブに沈む。
「もう! 陸大好きっ!」
ったく……なんだかなぁ。
クスクス笑いながら俺にしがみつく麻衣。
その軽やかな笑い声と楽しそうな笑顔に俺は細かいことなんかどうでもいいと麻衣を抱きしめた。
俺たちは体を湯の中に沈めて笑いながら何度も何度もキスを交わす。
その間も熱い湯は次から次へと二人の体の上を流れていった。
end
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