『番外編』
清なる夜に【1】

 十二月二十四日。

 クリスマスイブ。

 十二月に入ってから街は色付き、肩を並べて歩く恋人達をやたら目にするような気がした。

 日本は恋人と過ごすのが慣習らしく、例に漏れず俺の恋人もずっとソワソワしている。

 まぁ、気持ちは分からないでもないが……。

 この年の瀬も迫った仕事が追い込みのこの時期に定時に上がれると本気で思ってんのか?

 俺がここ連日、何時まで会社にいるのかアイツは知らないだろうな……。

 そんな事に気を掛けるどころか、クリスマスイブに予定は入れられないと言ったら機嫌を損ねて未だにヘソを曲げている。

 困った奴だ。

 今日も残業を頼んだら口をへの字に曲げて膨れっ面だ。

 そんなにクリスマスが大事か? だいたいクリスマスは明日だぞ。

 そう思って時計を見れば、あと数分で日付が変わり二十五日になろうとしている。

 もちろんかのこの希望を叶えたい気持ちがないわけじゃない、だが仕事を疎かに出来る立場じゃないことをもう少し理解してくれたらと思う。

 まぁ、膨れっ面のアイツも可愛いがな。

 昼間のかのこの表情を思い出すと誰も居なくなったフロアで俺は一人頬を緩めた。

 まったく……俺もどうしちまったんだろうな。

 鞄の中から小さな白い箱を取り出した。

 かのこの為に用意したクリスマスプレゼントは珊瑚で苺を模ったペンダント。

 珊瑚なんて若い女が好む石ではない事は百も承知だが、三月が誕生日のかのこのお守り代わりに……というつもりだ。

 きっとこれからも辛い思いをさせてしまう事もあるけれど、これにそういう俺の思いを託してかのこの気持ちが少しでも軽くなってくれればいいと思う。

 しばらくその箱を見つめながらかのこのデスクの引き出しを開けた。

 小さな箱を慎重に置いて閉めながら明日のかのこの表情が目に浮かぶ。

 きっとすごく驚いた顔をしてそれからきっと……俺の顔を見るに決まっている。

 ずっと機嫌が悪いかのこの機嫌は明日取ればいい、いや……機嫌を取らなくてもきっと勝手に機嫌が良くなるだろうな。

 こんなに仕事を詰めていた理由くらい分かれよ。

 携帯で明日のディナーの時間を確認する。

 ったく……俺も甘い。

 結局はアイツの喜ぶ顔が見たくてこんな事するんだからな。

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