『番外編』
ネコミミver.black【11】

 静かな寝息が聞こえて来る部屋で貴俊はようやくパジャマを身に付けた。

 汚れた体を濡れタオルで拭いているうちに眠ってしまった祐二にいつものスウェットを着せたが起きる気配はない。

「ほんと可愛い……」

 ぐっすり眠る祐二の頬を撫でる。

 寝ているはずなのに擦り付けるように動く祐二の顔にさらに愛しさが増した。

「子猫ちゃん……か」

 まだ頭に付いたままの猫耳に触れる。

 本当に祐二が子猫で自分のペットだったらいいと思う。

 そしたらこの部屋から出さずに自分だけが可愛がることが出来る。

 小さな檻の中にいられる祐二じゃないことは分かっているけれど、それでも祐二の世界に存在しているのが自分だけだったらどれだけ幸せかと何度も想像した。

 叶わぬことだと知りながら想い続けて今隣にいる現実。

 それは奇跡にも近い、夢のような出来事。

 いつかこの幸せな夢がすべて幻で塵となって消えてしまうんじゃないかと怯える日々。

「離れないで」

 決して吐くことのない弱い心が不意に零れる。

 いつも祐二が嫉妬するほどカッコいい男でいたい、誰に何と思われてもいい、ただ祐二が自分を見ていてくれたらそれでいい。

 病むほど切ない想いに苦しくなる。

 どうか夢なら醒めないで……と生まれて初めて祈りを捧げる。

「……た、かとし」

 眠そうな祐二の声が聞こえ瞼を持ち上げた祐二の瞳が彷徨いながら貴俊を探す。

「おやすみ」

 顔を近づけてキスをするとフニャッと寝ぼけた笑顔を見せて再び眠りに落ちていく。

 傍らで眠る祐二が身じろぐとチリンと小さな音がした。

 もしこれが夢なら夢でもいい、ずっと醒めないで死ぬまでこの夢を見ていられれば……それでいい。

 でもこれは現実だ、祐二は自分の腕の中にいる。

 この温もりを失わないためならどんなことだって出来ると誓えるよ。

 貴俊は布団に潜り込むと祐二を抱きしめて目を閉じた。

end
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