『番外編』
ネコミミver.black【3】

「祐二、風呂……」

 ホカホカと湯上りの貴俊が部屋のドアを開けた。

 だが返事はなく祐二は床に敷かれた布団の上でゲームのコントローラーを握ったままベッドに寄り掛かりウトウトと眠っている。

 頭をふわふわと揺らしている祐二を見て貴俊は部屋に入ると後ろ手に鍵を掛けた。

 週末にどちらかの部屋に泊まることは当たり前のようになっていた。

 付き合い始めてからそうなったけれど小さい頃から互いの部屋を行き来していた二人のことを家族は特に気に留める様子もなく自分の家族のように受け入れている。

 今日も家には寄らず真っ直ぐ貴俊の部屋へと来た祐二はまるで自分の家のようにすぐにゲームの電源を入れた。

 脱ぎ捨てられた服を片付けるのはいつも貴俊の役目で部屋の壁にはちゃんとハンガーに掛けられた祐二のダウンジャケットが掛けられている。

 ゲームに夢中になっている祐二に何を話しかけても無駄なことを知っている貴俊は冷えた体を温めるために風呂へ入った。

 出来るのなら一緒に入りたいというのが本音だったがさすがに家族の手前そうするわけにもいかない。

 眠っている祐二のそばに膝を付いた貴俊はしばらく祐二の顔を見つめていたが何かを思いついたように立ち上がると自分が着ていたピーコートに手を伸ばした。

 チリン。

 ポケットから取り出した物が小さな音を立てた。

 黒い毛で出来た猫耳と黒いリボンに鈴が付いたチョーカー。

 店を出ると同時に毟り取った祐二が乱暴に貴俊のコートのポケットに突っ込んで返して来た。

 似合っていたのに……と残念そうに呟くと祐二はキッと目を鋭く吊り上げて握った拳を貴俊の鳩尾へと繰り出した。

 祐二のパンチを受け止めることには慣れている貴俊は避けることもせず受け止め、わざと苦しそうに顔をゆがめて祐二の自尊心を満足させた。

 言い方は悪いが自分の手の中で予想通りの反応を示す祐二が可愛くて仕方がない。

「ほんと似合ってたのに」

 その手の中にある物を見ながら呟くとゆっくりと祐二へと視線を移し再び膝を付いた。

 眠っている祐二を起こさないように猫耳の付いたカチューシャとチョーカーを取り付ける。

 それから背中と膝裏に手を当てて横抱きにするとベッドへと運んだ。

 ――ガサッ

 ベッドに祐二を下ろすと同時に聞こえて来た音に貴俊は小さくため息をついた。

 足元には無造作に開かれたポテトチップスの袋が置いてあり、どうやらゲームをやりながら食べていたらしく食べかすが布団の上に落ちている。

 昔から部屋を汚す才能はピカイチだった。

 それがたとえ貴俊の部屋だろうが関係はない。

 貴俊は布団に落ちた菓子くずを拾いまだ食べかけのポテトチップスの袋を湿気らないように閉じてテーブルの上に置いた。

 ――ギシッ

 ベッドの上の祐二が身じろぐと貴俊はベッドに腰掛けたがわずかに動いただけで祐二は規則的な寝息を立てている。

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