『番外編』
ネコミミver.black【2】

「なぁ、貴俊。今日のアレあんなんで良かったのかぁ?」

 さっきの反省の色もなく口に食べ物を入れたまま祐二が話をする。

 モゴモゴと多少聞き取りにくいが貴俊は祐二の言葉を聞き間違うことはない。

「いいんだよ。元々あの場で何かを結論を出させるつもりはなかっただろうし」

「ふぅーん。そうだ、お前は会ったことあんのか?」

「誰に?」

「pacoって人。どんな人なんだ? すげぇ年上なんだろ? やっぱり大人の女って感じか?」

「……どうして? そんなに気になるの?」

 貴俊は瞳をスッと細めて立ち止まる。

 数歩進んだ祐二は立ち止まった貴俊を不思議そうに振り返った。

「他の人は知ってるみたいなのに俺だけ知らなかったからさ、お前も会ったことあんのかなぁって。だいたい何でお前が進行役みたいの頼まれたのかも分かんねぇし」

 手に持ったピザまんをかじる祐二は貴俊の表情には気付かなかった。

 それを一番ホッとしていたのは貴俊自身で、強張らせていた顔を緩ませると歩み寄った。

 祐二の良い所は素直すぎるまでの感情表現、隠し事が出来ないばかりか打算のために計算することもない。

 だから今の言葉がふと頭に浮かんだ疑問を口にしただけだと分かれば貴俊はこれ以上機嫌を損ねる理由はなかった。

「気になる?」

「べ、別にそんなんじゃねぇけどさ……」

 急に口ごもる祐二を見て貴俊の瞳が優しくなる。

 少しだけ口を尖らせて視線を合わせようとしない祐二の心の内が手に取るように分かる貴俊は空いている方の祐二の手を取った。

 手を握られて祐二は一瞬ビクッとなったがそれでも手を振り解こうとはしない。

「今日のメンバーの中で進行出来るのは俺しかいなかっただけだよ」

「ま、確かにそうかもな。それにしてもさ! またあの怖い兄ちゃんに会うなんてビックリだよな?」

 祐二は自分が見ず知らずの人物に嫉妬したとは気付かないまますぐに次の話題を口にした。

 もちろん貴俊はそのことに気付き幸せで胸を満たしながら握った祐二の手を指を絡めるように繋ぎ直すと二人は再び歩き出した。

 いつもなら乱暴に振り解かれるはずの手が今日は大人しく繋がれている。

 それは色んな原因が重なっているからでほとんど奇跡に近かった。

「相変わらずあの人にベタ惚れって感じだもんなぁ」

「俺も祐二にベタ惚れだよ」

「ば、ばかっ! 恥ずかしいこと口にすんなっ!」

 声を荒げた祐二の足が速くなる。

 それでもしっかりと繋がれた手を見て貴俊は嬉しくなりながら祐二よりも大きなストライドで涼しい顔をして祐二の横を歩く。

 貴俊はこの奇跡のような幸せな時間を壊さないために、家へ着くまでの残りの道のりは余計なことを口にしないで祐二の言葉に相槌を打つことに専念した。

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