『番外編』
ネコミミver.black【1】
駅からの一本道は住宅街が近付くにつれ明るさが少なくなっていく。
その道を寄り添うように並んで歩く二人の姿。
寒さで吐く息は白いが口元に笑みを浮かべているのは黒のピーコートを来た貴俊、その横には被っているニット帽のボンボンを貴俊の顔の辺りで揺らしながら歩く祐二。
見るからに暖かそうなダウンジャケットに身を包んでいる。
「お前も食う?」
祐二は真っ白な息を吐きながら食べかけの肉まんを貴俊に差し出した。
「俺はいいよ。祐二お腹空いたんでしょ?」
「そうなんだよなー! 鍋あんだけ食ったのになぁ」
そう言いながら祐二は残りの肉まんを口に放り込んだ。
両頬が膨らむほど詰め込み大きく口を動かしながら咀嚼する祐二の姿を優しい眼差しで貴俊が見下ろす。
今日は二人揃ってある集まりに顔を出した帰り道だった。
貴俊の手には駅から歩いてくる途中に寄ったコンビニの袋がぶら下がっている。
もちろんその中身は祐二が食べる分のピザまんとポテトチップス、それと温かい紅茶が一本。
「れさぁ……ングッ! ゴホッ、ゴホゴホッ……」
まだ口の中に残っているにも関わらず話を始めた祐二は食べ物を喉に詰まらせて大きく咽た。
貴俊は予期していたかのように紅茶を取り出してキャップを取ると祐二の口元へと近づけた。
「祐二、飲んで」
「ンッ……」
差し出された紅茶を掴み慎重に飲む祐二。
もちろん貴俊は甲斐甲斐しく背中を擦っている。
貴俊にとってこうやって祐二の世話を焼くことはもう生活の一部だし、それが自分にとって何よりも大切なことでありこの役目を誰かに譲る気はさらさらなかった。
傍からは見れば仲の良い兄弟といった感じだが当たり前のように受け入れる祐二を一層愛しく思ったのか、貴俊は背中を撫でていた手を頭に乗せていつもするように髪を撫でた。
「ケホッ……な、なんだよ」
「大丈夫?」
「おぅっ! ピザまん食うっ」
さっきまで苦しそうに咽ていたのも忘れて祐二が声を上げる。
二十センチほど身長に差があるせいか貴俊を見上げる祐二はいつも上目使いだった。
たった今も心配そうに声を掛ける貴俊を大きなアーモンド型の瞳で見上げてニカッと白い歯を見せて笑った。
袋からピザまんを取り出して紅茶と交換する貴俊の瞳の奥に激しい炎が揺れる。
本人に言えば機嫌を損ねることは間違いないと分かっているからこそ貴俊は絶対に口にはしないが、無意識に祐二が貴俊に向けるその眼差しと笑みがどれほど貴俊を煽っているか分からない。
今でも貴俊は今すぐ抱きしめてキスしたい衝動を必死に抑えている。
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