『番外編』
2011☆SUMMER46

 じわりじわりと陸が近付いてくる気配を感じながらも、目を閉じていると自然と睡魔が襲ってきた。

(今、何時だろう。早く寝ないと明日も仕事だし……)

 ふぁっとアクビが出て、足元のタオルケットを引き上げようとした麻衣は、途中で掴まれた手に今度は無視出来なかった。

「もう、陸! いい加減にして。私は寝るの。邪魔しないで!」

「麻衣、ひどい。俺、落ち込んでるのに……」

「そう? さっきは随分元気そうだったけど?」

 腕を掴んだまま、陸は背中にぴったりと身体を寄せてきた。

 振り返りもせず、冷たい言葉を投げかけると、今度は腕ごと陸に抱きしめられた。

「俺のこと……嫌い?」

(……なに?)

 信じられない言葉に一瞬耳を疑った。

 どういう脈絡でその言葉が出てきたのか、まったく分からずに返事に困っていると、後ろから肩に顔を埋めた陸が続けた。

「気持ち悪い、とか……さすがに俺でも、ちょっとへこむ」

 実は演技なんじゃないかと疑っていた麻衣は、元気の無い陸の声に首だけで後ろを振り返った。

 肩に乗せていた陸の額にコツンと当たると、しょげた顔をした陸が顔を上げた。

「陸……? 本当に何かあったの?」

「麻衣に叩かれた」

「……だから、あれは夢を見たからで……陸を叩いちゃったけど、私はそんなつもりはなくて……」

「気持ち悪いって言った」

「だからね、それも夢の話で……」

「俺は夢を見てたって、麻衣に触れられたらすぐに麻衣だって分かるもん」

「……え?」

「あんなにエッチしてきたのに、俺いっつもいっぱいいっぱい愛してあげてるのに、覚えてくれてないとか、すげーショック」

 拗ねた陸の口調より、言われた内容にまさかという思いで、陸の腕の中で身体の向きを変えた。

「ま、まさか……あの……」

 鼻先が触れ合いそうなほど近くで、恐る恐る陸の顔を覗き込んだ。

 陸の言い分が正しければ、たとえ夢だったとはいえ、とんでもないことをしてしまった。

 拗ねて尖らせている唇に視線を奪われたまま、決定的な言葉を聞かされた。

「俺がキスしてたのに、ナメクジとか、ちょっとありえない」

「あ、ああ……あのね……えっと……」

 何か言わなくちゃと思っても、言い訳の言葉も見つからなかった。

 夢は自分の都合の良いように見ることは出来ないのだから不可抗力、たとえそう言い張ったとしても、もし自分が逆の立場だったら陸ほどではないにしろ、少なからずショックを受けると思う。

「ご……めんね?」

 謝ることしか出来ないけれど、とにかく謝るしかないと、申し訳なさで目を見ることも出来ず麻衣は目を伏せた。

「いいよ……と、言いたいところだけど、やっぱ許してあげない」

(そうだよね。私だって、気持ち悪いとか言われたらすごく傷つくもの)

 麻衣は意気消沈して身体を小さくさせていると、陸の唇が軽く頬に触れさらに続けて耳や首筋へとキスを繰り返した。

「り……く?」

「俺の唇、覚えるまで今日は許してあげない」

 目を開けた麻衣に、陸はチュッと音を立てて鼻先にキスをした。

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