『番外編』
2011☆SUMMER42

 指よりも少し太いけれど、指のように責め立てるように動かない分、身体からほんの少しだけ力を抜いた。

 もちろんこれが動き出せば、指で責められるより辛いことは分かっている。

 いつ動き出すのか戦々恐々としながら、和真の手元ばかりを気にしていると、和真は隠すこともなくスイッチを入れた。

「あ……っ」

 静かな振動が身体の奥から伝わってくる不思議な感覚、強い快感からは少し遠いけれどジワジワと広がっていく。

 少しずつ身体から力が抜けて行くけれど、ごくごく弱い快感はじれったくもあった。

(これじゃあ、なんだか……)

 気持ち良いけれど、どこか中途半端で身体が余計に疼くうえに、さっきから和真の視線ばかりが気になってしまう。

 顔を上げなくても見られているのが分かる、そう思えば思うほど不思議と身体は堪らなくなっていった。

(も……こんなのじゃ……)

 時計が視界に入らなくて、いったいどのくらいの時間が経ったのか分からない、ただ分かったことはこんな生殺しのまま放っておかれるより、訳が分からなくなるくらいされた方が楽だということ。

「どうした、あまり良さそうじゃないな」

「そ……れは……っ」

 正直にそうだと言うには、まだまだ理性に支配されていて、かのこは物足りないと感じている自分を悟られたくない一心で顔をそむけた。

(もっとして欲しいだなんて、まるで……淫……乱、みたいだもの)

「最初の頃は、これでもすごい感じてたくせに、随分とやらしい身体になったものだ」

「だ、誰の! ……せい、だと思って……」

 相変わらず怖いほど気持ちを読む和真に、言われたくないことを言われて、つい言い返してしまった。

 和真を睨みつけようと顔を上げたかのこは、その言葉さえもすべて計算づくだったことを思い知らされる。

和真は小さなリモコンを弄びながら、身体を屈めるとリモコンでかのこの顔を上に向かせる。

「俺のおかげ、だろ? 俺以外の男に抱かれようなんて考えるなよ。そんないやらしい身体じゃ、その辺の男では相手しきれないからな」

 首を真後ろに倒れるほど上を向かされ、和真はそう言うともったいぶった仕草で、リモコンのスイッチを少しずつ強くする。

「ああっ!」

 身体の中で振動が大きくなり、振動が全身に伝わっていくと同時に、快感があっという間に全身を駆け巡った。

「や、あ……っ」

「いい顔になってきたな」

「ま、待って……いきな、りっ」

「足りなかったんだろ? 本当はこんなものじゃ足りないくらいのくせに」

 どうなんだ?と和真が意地悪に笑う。

(そ、んな……楽しそうな顔を、して……本当に意地悪っ)

 抵抗したくても身体が言うことをきかず、力の入らなくなった身体は膝から崩れ落ちた。

 快感に震える身体を膝に手をついて堪えていると、和真が動いたのかベッドがわずかに軋む音が聞こえた。

「かのこ」

「……は、はい」

 名前を呼ばれて仕方なく顔を上げると、和真はベッドに腰掛けて悠然と足を組み、膝の上で手を組んでいる。

 まるで王様のような姿、もちろんこの部屋の中で主は和真、そしてかのこのすべてを支配することが出来るのも和真だった。

「抱かれたいか?」

「な……っ」

「答えろよ。オモチャを入れたまま達くまでそこにいるか? それとも俺に抱かれるためにベッドへ来るか」

 選べ、と和真が言い放つ。

 選ぶ前から答えが決まっている二者択一に、かのこは恨めしい視線を送り唇を噛んだ。

(こんなの和真の思うツボなのに……、違う答えなんて選べるわけがない)

 和真が与えてくれる快感は、こんなものじゃない。

 気持ちが良いばかりだけじゃなく、蕩けそうに甘くて、泣きたくなるほど愛しい気持ちにしてくれる。

 与えられる幸せを想像して、待ちきれなくなった身体の奥から、熱い雫が下着をじわりと濡らした。

「か、ずま……」

「答えは決まったか?」

 頷いたかのこに、和真は答えを分かっている顔で言った。

「どっちだ?」

「ベッドに……行く」

「そんな言葉に俺に抱いてもらえると思ってるのか?」

「……え?」

「俺はお前がそこで一人で始めようが、どっちでも構わないからな。抱いて欲しいならそれなりの態度があると思うが?」

 答えれば悪魔と契約するのと同じだと分かっていても、答えた先に待っている快楽がかのこの唇を動かしてしまう。

 かのこは跪いたまま、和真の顔を見上げて口を開いた。

「抱いて……下さい」

「来いよ。朝まで可愛がってやる」

 お仕置きはずっと続いていたのだとようやく気が付いた。

 最初から仕組まれたことなのかもしれないけれど、そんなことは大した問題ではなくなっていて、頭の中は和真が与えてくれる甘く淫らなお仕置きのことでいっぱいになっていた。

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