『番外編』
2011☆SUMMER39

 大理石の床に膝をついて、一体どのくらいの時間が経ったのか分からない。

 大きく開き続けた口は、顎がだるくなっても閉じることは許されず、唇の端からは飲み下せない唾液が垂れた。

「そんなやり方じゃ、いつまで経っても終わらないぞ」

 頭の上から降ってくる声に、目だけで顔を見上げれば、想像通り意地悪な顔をして見下ろしている。

「やり方は教えてあるだろう?」

 目が合うと和真はニヤリと笑ってそう言い、かのこの額に掛かる前髪をかき上げたその手を後頭部に添えた。

『俺を達かせろ』

 お仕置きだと言ったその後すぐに、和真は短くそう言った。

 こういう時には何を言っても無駄だと知っているから、かのこには大人しく膝をつく道しかなかった。

(酷いことをされているはずのに、どうして私こんな……)

 熱くなった和真のものを唇に力を入れて扱き、舌先で苦味のある体液を舐め取りながら、口に含みきらない部分を手で擦った。

 玄関には相応しくない音が響き、時々だけれど和真が掠れた息を吐く音が聞こえる。

「……っ、上手いな」

 和真の手に頭を撫でられ、たった一言褒められただけなのに、苦しさが和らいでしまう。

 こんな場所でこんなことをしている非現実的な状況は、かのこ自身の感覚も少しずつ現実離れしたものになっていた。

(身体が熱い……)

 口に含んでいる和真の熱よりも、自分の身体の方が熱くなっている気がする。

 まるで高熱にうなされているかのように、頭がクラクラしているような感覚、かのこは口に和真を含んだまま熱い吐息を吐き出した。

「苦しいか?」

 気遣ってくれていると取れる言葉に、もしかしたら開放してくれるのかもしれない、けれどそんな期待はすぐに泡となって消えた。

「……ングッ」

 後頭部に添えられた手に力が入った、そう気が付いた瞬間、喉を強く圧迫された苦しさに目を見開いた。

「最後まで、口を離すなよ」

 最後までの意味をすぐに察したけれど、喉を突かれる苦しさに、たまらず和真の上着の裾を掴んだ。

 奥を責められるのを防ごうと舌で壁を作っても、和真は難なく舌を押し倒していく。

(苦しい、のに……)

 口内を乱暴に犯されていても、和真を阻もうと硬くした舌が和真の先端にふれるたび、堪えきれなくなった和真の声が聞こえて、熱くなっていた身体がさらに反応してしまう。

「……かのこ」

 掠れた声で名前を呼ばれたのが合図になった。

 両手で頭を押さえられ、ラストスパートとばかりに激しく責められると、苦しさを感じる暇もなく熱い奔流が口の中を埋め尽くしていく。

 初めての行為ではないけれど、何度しても慣れることはなかった。

(早く、口の中から出したい)

 生温かさと独特の匂いに、どうしても眉間に皺が寄ってしまう。

 口の中を満たす和真の欲は簡単に喉へ流れていくことはなく、口内に留まらせたままでいると、息を荒くさせた和真の笑う声が聞こえてきた。

「俺のことが好きなら、当然飲めるよな」

 和真はいつだって思考を読んでいるとしか思えない、そして今もまたしっかりと釘を刺されてしまった。

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