『番外編』
2011☆SUMMER36
無言の責めがどのくらい続いたのか、ついには耐え切れなくなったかのこは、目を潤ませて和真の上着の裾を掴んだ。
「ち……がうんです」
言い訳をするわけじゃない、そういう状況になった説明をしなければいけないと思った。
「男にチヤホヤされて有頂天か?」
「……違っ」
「口先だけの甘い言葉に騙されてどこまで許した?」
背中は壁にピタリとくっ付いているのに、それでもまだ和真から離れようとして、下げた踵が壁に当たって音を立てた。
(ゆ、許すって……)
「高い金出して酒飲んで、男にもてはやされていい気分か? 甘い言葉で誘われたら金だけじゃなくて、身体も差し出すつもりか?」
「そ……んなっ! そんなことしないですっ! それに、それに……」
自分に非があるにしても、酷い言葉を投げかけられてかのこは胸が痛んだ。
(あの人達はそんなに悪い人じゃなかった)
和真はホストという職業を誤解している。
自分もホストと聞いてあまり良いイメージは持っていなかった。
短い時間ではあったけれど実際に話をしてみて、彼らを悪い人と思うことは出来なかった。
確かに恥ずかしいセリフを言われるし、初対面なのに距離感がとても近いし、男性に慣れていない自分にとっては、驚きの連続だったけれど、女性から金を集ったり、無理矢理酒を飲ませるような、強引なことはされなかった。
店のナンバーワンだというホストは、慣れていない自分を終始気遣ってくれたし、暴走気味の真帆を上手にあしらっていたし、もう一人の落ち着いた感じの黒髪のホストは、口数は少なかったけれど、感じの良い人だった。
「ひどいことなんてされてないです……」
「ほお? ホストの肩を持つのか?」
「そ……そうじゃなくて! 私は和真が思っているようなことはしてないです。確かに……真帆先輩に連れられて、ホストクラブに行きました。ホストクラブだし、男の人達に囲まれてお酒を飲みました。でも、本当にそれだけです!」
「男を侍らせて女王様気取り、でな?」
「違いますっ!」
あくまで責める姿勢を崩そうとしない和真の言葉にかのこはさすがにムッとした。
(いつだって自分が正しいって思ってる。そりゃ和真が正しいことが多いし、和真と言い合いになっても、理詰めでやり返されたら一言も反論出来ないけど……)
責められっ放しだったかのこは、アルコールの力も借りて、俯き気味だった顔を上げて和真の顔を正面から見据えた。
「ホストの人達はみんな楽しい人達ばかりでした!」
「なに?」
勢いで言い切った言葉に、和真があからさまに不機嫌そうに眉を寄せた。
「無理矢理お酒を飲ませようともしないし、場を盛り上げようと色々楽しい話をしてくれるし、ホストってお高く留まってなくて、すごく気さくで同年代の友達と飲んでるみたいで、楽しかったんですっ!」
何が悪いんですか、と最後は視線で和真を圧倒しようとした、でも……眉間に深い皺を作った和真に顎を掴まれた。
「楽しかった、だと?」
(ここで……怯んじゃダメ)
「た……楽しかったです!」
いつもなら引いてしまうかのこが、珍しく我を張っていることに驚いたのか、和真は意外そうな驚きの表情を見せた。
「だ……だいたい」
一度勢いづいてしまえば、後のことなど考える余裕もなく、反抗する言葉が次から次へと頭に浮かぶ。
「和真だって……お、女の人とお酒飲みに行くじゃないですか」
「はあ?」
怒り一色だった和真の顔に、訳が分からないとでも言いたげな表情が浮かんだ。
[*前] | [次#]
コメントを書く * しおりを挟む
[戻る]