『番外編』
2011☆SUMMER33

 我慢出来ずに下りてくる瞼に、窓の外を流れる景色が、遮られそうになって慌てて首を横に振った。

 久しぶりにアルコールを口にしたせいか、かのこはひどい睡魔に襲われながらタクシーに揺られている。

 真帆やさくらが同乗していた時は、話し相手がいて平気だったのに、一人になった途端襲ってきた睡魔に、もう何度目になるか分からない大きなアクビをして、目尻に浮かんだ涙を手で拭った。

(でも……まだタクシーで良かったかも)

 真帆とさくらを先に下ろすために遠回りしたことを思えば、電車の方が随分早く家に帰ることが出来たのは確かだけれど、電車は乗り過ごしても誰も気が付いてくれない。

 終点で目が覚める……という失態を犯してしまうことを思えば、まだタクシーの方が運転手がいるだけ良いという結論だ。

「あ……次のコンビニを右にお願いします」

 ようやく自宅の近くに来て、背を伸ばして運転手に声を掛けると、いくらか頭の中がハッキリした。

(コンビニで止めてもらっても良かったな。なんかお腹空いちゃったし)

 冷蔵庫の中身がほとんど空なのを思い出して、行き先の変更を伝えようとしたが、タクシーはゆっくりと右折をしてしまった。

(まあ、いっか)

 帰ってシャワーを浴びて寝てしまえば、そんなことも気にならないだろうと結論を出した。

「ここでいいです」

 アパートが見えてタクシーが止まると、預かっていたお金を取り出した。

(やっぱり……貰いすぎだった。余った分はどうすればいいの? ほんとに返しに行くの?)

 タクシー代は信じられないことに、三人がタクシーに乗るまで見送ってくれたホストが渡してくれた。

 ホスト=お金を絞り取るというイメージがあっただけに、これにはさすがに驚いてしまった。

「じゃあ、これで……」

 渡された一万円札から二枚差し出すと、突然ドアが開けられた。

 それは自動的に開いたのではなく、明らかに誰かの手によって開けられたらしく、勢いよく開いたドアに車体が揺れた。

「な……っ!!」

 開いたドアにもたれるように、車内を覗き込んできた人物に目を疑った。

「あ、あなた……何なんですか!?」

 強盗だとでも思ったのか、タクシーの運転手が声を震わせながらも、礼儀知らずのこの人物に声を掛けた。

「奥へ詰めろ」

「え……な、なんで!! ちょっ……っ」

 人の意見などお構いなしで、かなり強引に乗り込まれてしまい、かのこは仕方なく座席を譲った。

「か……和真!! どうして……っ」

「しまえ」

 運転手に差し出していた一万円札を、和真の手で引かされたかと思うと、質問に答えることなく動揺している運転手に行き先を告げた。

「あ、あの……ぉ」

 運転手がミラー越しにかのこへと案じるような視線を送っている。

(もう、何なの……?)

 和真はといえば、シートに身体を預けて目を閉じてしまっている。

 困惑している運転手に、自分の責任ではない非礼を詫びて、和真が告げたマンションがある住所へと向かってもらった。

 再びタクシーが走り出し、さっきまでより明らかに重苦しい沈黙の中で、一体何が起こったのか掴めないものの、ただただ嫌な予感ばかりを感じていた。

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