『番外編』
2011☆SUMMER32
貴俊は頬を上気させ、額から流れる汗を拭おうともせず、恥ずかしそうに笑ってキスをした。
「余裕なくてごめん」
「気持ち……いいのか?」
無意識にそんなことを口走ってしまうと、貴俊は驚いたのか目を瞠って、額同士をコツンと合わせた。
「気持ちいいに決まってるでしょ。祐二とじゃなきゃ、こんなに気持ち良くなれないんだよ」
でも今日は特別なんだと言うと、貴俊は抽挿を再開させた。
(何が特別なんだ?)
そういえばさっきも「今日の……」と言われたことを思い出して、何が違うのか聞こうと思ったけれど、すぐに激しい波に呑まれてしまった。
◆ ◆ ◆
息が整って汗が引く頃には、貴俊の手によって全身を拭われていた。
新しいタンクトップを着せられて、汗で濡れたベッドではなく布団に横になり、同じく着替えた貴俊が隣に並ぶ頃には、瞼が重くなり始めていた。
「なあ……」
狭いシングルサイズの布団は、二人が寝るには狭すぎて、祐二は貴俊に背中から抱かれる格好になった。
もう慣れたその格好に、特に文句を言うこともなく、祐二は意識が飛ぶ前に聞こうとしていた疑問を口にした。
「今日って……何かあったか?」
思い出してみれば今日は本当に貴俊の機嫌が良かった、たしかに近場で遊ぶ日とは少し違ったかもしれないけれど、そこまで差があるとは思えない。
「俺……が、ビリヤ……ド教えてもらって、お前……機嫌、悪く……て」
(やばい、すげぇ眠くなってきた)
身体をキレイにされて、サラリと肌を覆う布団の中で、疲労感がドッと押し寄せて瞼が重くなる。
鈍くなる思考の中で、一日のことを思い返したけれど、何度も思い出してみても、日和の恋人にビリヤードを教えてもらってる時は、不機嫌を顔に出していた。
(あれ、そういえば……ビリヤード終わる頃には機嫌良かったよな)
その間に何かがあったのは確かだが、自覚のない祐二は一体何があったのか分からない。
「な……ぁ、貴……と……」
(俺……お前が、喜ぶよう……な、こと……してた、のか?)
返事を聞くまでは起きていたいのに、睡魔に意識が引き摺られてしまう。
「おやすみ、祐二」
後ろから声が聞こえた。
背中に触れる貴俊の温もりも、急速に眠りを運んで来ようとする。
まだだ、と瞼を持ち上げても視界は真っ暗で何も映さない。
「違……、お……し……」
「祐二がね。俺の隣にいてくれるのが嬉しいんだ」
意識を睡魔に乗っ取られるその前に貴俊の言葉を聞いた。
(バカ……何、言……て……だ)
次に目を覚ましたら覚えていないような、それほど些細で当たり前のことを言われた。
(起きたら……、言ってやらなくちゃ)
いつだって隣は貴俊の居場所なんだってこと。
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