『番外編』
2011☆SUMMER30

 暗い部屋は視界を奪われているせいなのか、他の感覚が鋭さを増しているような気がする。

 いつもより速い胸の鼓動や、首や胸に触れられる唇の熱さや、二人の身体から立ち上る匂い。

 そのどれもが膨れ上がる欲情を満たし、さらに欲情を煽った。

「貴俊……それ、もっ……いい」

 胸に顔を寄せ、小さな乳首を舌で器用に転がす貴俊の髪を引っ張った。

 ほんの少しだけ顔を上げた貴俊は、唇を離してもなお舌を伸ばす。

「でも、気持ちいいでしょ?」

「……ッ」

 長く伸ばされた舌で、硬く尖った乳首を突き軽く触れた先端でくすぐられた。

 どうしてこんな小さな飾りのようなものが、こんな大きな快感を得ることが出来るんだろう。

 祐二は疼く腰を揺らしながら首を横に振った。

「そ……ちじゃ、ねぇ」

 そう言ってる間も、足の間に伸ばされた貴俊の手は休むことを知らない。

 キスとも、口での愛撫とも違う、狭い粘膜を掻き混ぜられる音は耳を塞ぎたくなる。

(ああ、またっ)

 長い指が自分でも場所を知らない、後孔の一番感じる場所をわざとらしく掠めた。

「くっ、ふ……ぅっ」

 電気が走ったような快感に、腰が跳ねて反り返った自身が大きく揺れ、伝い始めていた雫が下腹を濡らした。

「も……やだっ」

「ダメだよ。ちゃんと解さないと祐二の身体が傷つくだろ?」

「いいっ、も……平気っ」

 今は1本だけで感じる場所を攻められているけれど、さっきまでは3本を無理矢理銜えさせられた。

 初めは1本でも息が詰まるほどの圧迫感、3本なんて到底無理だと思うのに、貴俊の指は何の抵抗もなく入って来てしまう。

「そうだね。一昨日もしたからかな……、ここもすごく柔らかい」

「ひゃぁっ!!」

 出て行くと思った指が、散々解された入口の縁を引っ掛けて、ぐるりと大きく円を描いた。

(も……っ、変になる)

 指で身体の中を弄られるのは一番苦手だった。

 自分では得られない快感を無理矢理与えられて、何度も繰り返されて身体に快感を刻み込まれる。

 最後には前後不覚になるほど、頭の中が真っ白になってしまう。

「祐二、声……少しだけ、抑えて?」

「……ッ!?」

 申し訳なさそうな顔をした貴俊に言われて慌てて口を手で覆った。

 鍵を掛けているとはいえ、声はドアを筒抜けになってしまう。

 二階には貴俊と兄の雅則の部屋だけで、その雅則の帰宅までには数時間ある。

 貴俊もそれを分かった上だろうけど、両親がいつ二階に上がってくるかは、貴俊にも予想が出来るはずもなかった。

(バレたら最悪だ)

 絶対にバレてはいけないという思いで、夢の中のようにふわふわした意識は、急激に現実へと引き戻された。

「貴俊……なぁ、やっぱり……」

 止めよう、そう言おうと思ったのに、貴俊は耳を貸さず頬にキスをした。

「もう、挿れるね」

 貴俊の身体が離れ、引き出しを探る音が聞こえて来た。

 止められるわけがないのは分かっている。

 自分もこんな状態で放り出されたくないし、身体はもうずっと貴俊が来るのを待っていた。

(それでも、もし……俺達がこんなことしてるってバレたら、俺達はどうなっちまうんだ?)

 貴俊に告げたことはないけれど、何度もそんな場面を想像をしたことがあった。

 あまりにショッキングな出来事だから、両親の反応はとても予想出来ず、残ったのは悶々とした思いだけだった。

「祐二、祐二」

「……あっ、悪い」

 いつの間にか戻って来た貴俊に顔を覗き込まれ、他所事を考えていたことを見抜かれたと思って、素直に謝ると貴俊は少し寂しそうに笑った。

「今だけ、今だけは……俺のことだけ見ててよ」

 切ない声が胸を締め付け、寂しげな顔をなぜか愛しいと思った。

「く……暗くて、お前の顔しか見えねぇよ」

 そういう意味じゃないのは分かっている、でも自分にはこれが精一杯だ。

「じゃあ……よく見えるように、もっと近付かなくちゃ」

 貴俊は焦点が合わないほど顔を近付けたかと思うと、唇と唇の距離をゼロにした。

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