『番外編』
2011☆SUMMER28

 24度に設定された部屋で、タンクトップ一枚という姿にも関わらず、額に浮かんだ汗がこめかみを伝った。

「くっ、はぁ……っ」

 枕に預けた頭をわずかに持ち上げると、暗闇に慣れた視界の中で、貴俊の頭が揺れているのが見える。

 キスよりも濡れた音は、鼓膜を震わせるより早く、身体の中を駆け上がり脳内を蕩けさせた。

「貴俊……ぃ、も……っ」

 何度目かの絶頂の予感に、汗で湿ったタンクトップを握った。

(今度こそ……)

 大きく開いた足の間で揺れる貴俊の頭を、縋るような思いで見つめると、今度も同じように貴俊は口を離し顔を上げた。

「それ……や、めっ」

 達しそうになるたびに、根元をキツク握られて、だらだらと涎を垂らす先端を、尖らせた舌先で抉られる。

(気持ち……っ、いい)

 目眩がするほどの気持ち良さに、誘うように腰が揺れたけれど止められなかった。

 今夜の貴俊はいつになく執拗だ。

 同じ男にと思えば悔しいけれど、与えられる快感の強さは、正常な思考さえも奪っていく。

「貴俊……早、くっ」

 根元をぎっちり握り込まれ、かすかな痛みを感じるせいで昂ぶりが引いていく。

 何度も同じことが繰り返され、絶頂ギリギリの身体を無理矢理引き摺り下ろされるたび、祐二は目尻に涙を浮かべた。

「祐二のココね。さっきまで桃の香りがしてたんだよ」

「……桃?」

 桃の香りというのがどうしたのかと思ったが、すぐに風呂場にあったボディソープの香りだと思い出して、襲った羞恥に身体が熱くなった。

「ヘンタイ!! エロオヤジ!! どこ匂い嗅いでんだよ」

「でもね、今の方がいい匂い。すっごいやらしい匂いがする」

 聞こえていないのか、貴俊はうっとりした表情を見せて、顔をゆっくりと俯かせていく。

(あ……来る)

 引き始めた熱を引き戻す合図、熱くて湿った貴俊の吐息が先端に掛かった。

 引き摺り下ろされた場所から、再び頂きへと押し上げられることに、身体は期待に揺れた。

「エッチな匂いがする」

「う……せぇっ」

「どうしよう、すごい興奮する。ねぇ……祐二は? 興奮してる?」

 変態じみたことを聞かれ、蹴り飛ばしてやりたいくらいなのに、口から出た答えは真逆になった。

「早く、し……て。もう、限界。苦し……っ、出したいっ」

 恥ずかしさと悔しさから、腕で目を覆ってしまった祐二は、訪れた完全な暗闇によって他の感覚が鋭くなるということに気付かなかった。

「うん。今度は達かせてあげる」

 嬉しそうな貴俊の声に、見なくてもどんな表情をしているのか、簡単に瞼の裏に浮かべることが出来た。

 閉じかけていた足を貴俊の手によって押し広げられ、同時に戒めを解かれた自身からはすぐに新たな体液が浮き上がった。

「は……ぁっ」

 ちゅっと音を立てて吸われ、腰に痺れるような快感が走った。

(気持ちいい。もっと、ちゃんと……)

 閉じることの知らない口からは、喘ぎ声と区別のつかない吐息ばかりを零す。

 浅く短い呼吸を繰り返す祐二は、欲望のままに腰を突き上げた。

「んぅ……んんっ」

 貴俊の苦しそうな声が聞こえたような気がした。

 確認しようかと目の上から腕を外すより早く、待ちわびた快感に意識が呑み込まれた。

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