『番外編』
2011☆SUMMER27

 明かり一つない暗い部屋、窓の外には明るい月が顔を見せているはずなのに、隙間無く締められたカーテンに阻まれている。

「ん……っ」

 激しく絡み合う舌の息苦しさに、逃げるように顔を横に向けばすぐに追いかけて来る。

 貴俊の手に髪を掴むように頭を引き寄せられ、二人の舌はさらに深くなった。

(キス、いつもより長ぇ……)

 苦しさから貴俊の身体を引き剥がそうとシャツを掴んだはずの手は、いつの間にかその逆に引き寄せている。

 自分の舌なのに感覚が薄れ、どちらのものか分からない唾液が、溢れて唇の端から伝った。

「貴……とっ……」

 キスの合間にどうにか名前を呼ぶと、貴俊はようやく動かし続けていた舌を止めた。

 絡めていた舌を止めただけで、汗の浮かんだ額を合わせ、鼻先を擦り合わせたかと思うと、濡れた唇で開いたままの唇を食まれた。

 チュッチュッと音を立てて吸い付き、終わりそうにないどころか、エスカレートしそうな気配に、我慢できずに背中を叩いた。

 ようやく顔を離したけれど、至近距離から顔を覗き込む貴俊の顔は、いつになく男の顔をしていた。

「あ……あっちぃんだよ!」

 顔をそむけて手の甲で汗を拭っていると、上に乗っている貴俊の身体が少しだけ動いた。

 すぐにピッと音がして、エアコンのリモコンを手に取ったのは分かったけれど、ボタンを押すたびに鳴る操作音が連続する。

「何やったんだ?」

「何って……温度下げたんだよ」

 再び身体に貴俊の重みが戻って来たかと思ったら、吸い付くようなキスを頬や首筋に雨のように降らせてくる。

 嬉しそうな顔を見せる貴俊に呆れていると、急にエアコンが音を立て始めた。

「おい……何度に設定したんだよ」

 火照った身体に心地良い冷気が吹き付けられ、首筋に張り付いていた貴俊の顔を引き剥がした。

「24度」

「はあ? 俺が26度かにすると、身体に良くないとか言って、28度にするくせに」

「だって……今から汗かくって分かってるし、それに暑いって言われても、今度は途中で止めてあげる自信ないから」

 いつも腹が立つほどの正論を振りかざすその口で、いともあっさりとそんなことを言ってのけた。

(こいつは……)

 引き剥がされた顔を元に戻して、音を立てたキスを再開させる貴俊に、文句の一つも言ってやりたくなった。

 貴俊のように難しい単語は思い浮かばないけれど、ここは何かガツンと言ってやりたいと考えた祐二は、ポンと思いついた言葉を口にした。

「ここで止める、ってのもアリじゃね?」

(なんてなー、ここで放り出されたら、俺もツライっての)

 てっきり聞き流すと思ったのに、貴俊はピタリと動きを止めて顔を上げた。

(どうした?)

 顔を離したかと思うと、今度は少し離れた場所からジッと見つめてくる。

 いつもの貴俊なら、爽やかな顔で難しい言葉を使って、うやむやに誤魔化して自分のペースに持っていくはずなのに、何かがおかしい。

「貴……」

 黙っているからどうしたのかと聞こうとすれば、足の間にグッと何かが押し付けられた。

「な……っ」

 視線を下ろせば貴俊が膝で股間を押し上げている。

「止め……っ、何……っん」

 擦りつけるような動きに、すでにキスだけで十分高まっていた身体が反応した。

「ねぇ、本当に止めるの……アリ?」

 掠れた声で囁いた貴俊が、男のくせにやけに色っぽい顔を近付ける。

(くそ……またやられた)

 あんな言葉で貴俊を止められるとは思っていなかったし、とりあえず言ってみただけだったのに、思わぬ仕返しをされて堪らず唇を噛んだ。

「ねぇ、祐二」

「うっせぇ」

「ここで止めた方がいい? それとも……続き、して欲しい?」

 ここで本当に止めていいと言えたら、今度こそ貴俊が慌てると分かっていても、気持ちより身体が許してくれそうにない。

 貴俊の術中から逃れることは不可能だけれど、貴俊が望む通りの言葉を素直に口にもしたくない。

 答えなど決まっているのに、グルグル考える祐二を追い詰めるように、貴俊の膝は動きを緩めることはなかった。

(あーもう、イチかバチかだ!)

 何より負けることが嫌いな祐二は、思っていることを素直に口にすることだけは断固拒否して、かなり思い切った行動を取った。

「な……っ、祐二っ!!」

「お前は……止められんのかよ」
 仕返しとばかりに祐二は、手を伸ばして貴俊のハーフパンツの上から膨らんだ股間を握った。

(お前だって、もうこんなのくせに)

 自分と変わらないくらい昂ぶった貴俊のそれを、手の平で擦り上げるとすぐに貴俊は足の動きを止めて、顔の横に手を付いて呻いた。

「止められるわけないだろっ」

 悔しさを滲ませた余裕のない声に、思ったよりスッキリして気分を良くした祐二は、暴走しそうな貴俊に唇を奪われる前に本音を口にした。

「もっと……ちゃんと触れよ」
 
 この言葉がさらに貴俊に火を点けることになってしまった。

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