『番外編』
2011☆SUMMER26

 貴俊の手は、器用にもハーフパンツのさらにもう一枚奥、薄い下着と肌の間に指を差し入れたかと思うと、するりと手を滑らせて入ってくる。

 祐二はグッと下腹を押し付け、それ以上の侵入を拒んだ。

(何もされてないのに勃ってるなんて、こいつだけには知られたくねぇんだ)

 何としても守ろうと身体全体を強張らせると、それさえも見透かされているのか、耳に触れていた唇が無防備なうなじに触れた。

「祐二、いい匂い」

「な、何言ってんだ!!」

 うなじに唇を触れさせたまま、耳の後ろに鼻先が触れたのが分かった。

(くそ……動けねぇ)

 止めろと身体を捻ろうとすれば、すでに侵入に成功した手が、さらに奥へと進もうと試みる。

 祐二はようやく自分が取った体勢の拙さに気が付いた。

 今さらどうすることも出来ず、歯痒さに下唇を噛むと、首に触れていた唇がいつの間にか背中に移動していた。

 タンクトップを捲くられていることに気付かず、貴俊の顔も腰の辺りまで下がっていく。

「やっぱりいい匂いがする」

「だ……っから、何わけわかんねぇこと言ってんだよ!」

「シャンプーもボディソープも同じはずなのに、どうして祐二はこんなに甘い匂いがするんだろう」

「変態ッ!! やめろっ!!」

 これみよがしに鼻を鳴らして匂いを嗅ぐ貴俊に、声だけの抗議をしてみたが予想通り何の意味もなかった。

 動けない間にさらにタンクトップを捲り上げられ、背中は肩甲骨の辺りまで剥き出しになる。

「食べたら甘かったりして、祐二の大好きなアイスみたいに」

 その言葉に嫌な予感がして、下半身の手のことも忘れて、逃れようと身体を捻った。

「ひゃぁ……っん」

 身体を捻ったのが悪かったのか、それとも最初からそのつもりだったのか、貴俊の唇が脇腹に触れた。

 触れるだけでなく、唇の間から伸ばされた舌が、味わうように肌を舐める。

「やめ……ぁ、んん……っ」

 身体の上の貴俊を振り落とそうと、腕を支えにして身体を起こした瞬間、今度は下着の中の手が奥へと入り込み、一番触れられたくない場所に触れた。

「あ……もう、勃ってる」

 本当に今気が付いたのか、貴俊が驚いたような口調に、祐二は今まで伏せていた顔を上げて振り返った。

(……やられた!!)

 目が合った途端、嬉しそうに笑ったと思ったら、手の平に包み込まれたそれを緩く扱かれ、もう片方の手は胸の辺りを探ろうとしている。

 完全に後ろからホールドされ、負け確定の体勢を取られてもなお、祐二は負けを認めないとばかりに横目で睨みつけた。

「祐二」

 弾むような嬉しそうな声で名を呼び、貴俊は音を立てて唇にキスをした。

 不機嫌だと主張するため、尖らせていた唇は、キスを受け止めるためと思ったのか、貴俊は遠慮なく何度もキスをする。

(だから、何でこいつは……)

 気が付けば、まんまと貴俊の思い通りになっていて、腹を立てていたはずなのに、自分にキスをする貴俊の顔が、本当に嬉しそうで祐二は毒気を抜かれた。

 自分を好きすぎるにも程があると呆れるのに、それでも嫌だとか気持ち悪いとかいう感情は生まれない。

 祐二は腕の力を抜いて、ポスンとベッドの上に身体を落とした。

「祐二?」

「……電気」

「え?」
「明るいのだけは嫌だかんな。それとちゃんと鍵も」

「うん。鍵なら閉めてあるから大丈夫」

 あれほど引っ付いて離さなかった手をあっさりと離し、立ち上がって電気を消しに行く貴俊の姿を見ながら、あの時聞いたカチャリという音は最初からそのつもりで鍵を閉めたんだと気が付いた。

 暗くなった部屋で、目が暗闇に慣れないけれど、貴俊が戻ってくる気配がする。

 いつもならそんな計算ずくの貴俊を、罵詈雑言で攻め立てるところだけれど、今日はそんな気も起こらない。

 それどころか、ベッドが二人分の体重を受け止めて沈む瞬間を、心待ちにしている自分がいた。

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