『番外編』
2011☆SUMMER23

「アイス、アイスー!」

 タンクトップにハーフパンツ、首にはタオルをかけた風呂上りの祐二は、鼻歌を交じりで冷蔵庫へ真っ直ぐ向かった。

 帰り道の途中で買ったアイスは三つ、家に着くまでに一つは食べてしまい、残り二つはコーラ味とソーダ味。

 どちらにしようか悩む祐二に、リビングから声が掛かった。

「祐二くーん、スイカ切ったわよー。食べるー?」

「食うー!」

 開いていた冷凍庫の扉をパタンと閉じて、素足でペタペタと音を立ててリビングへ向かえば、テーブルを囲むソファには、貴俊と貴俊の両親が顔を揃えていた。

 祐二は貴俊が座るソファの背もたれを乗り越えて、我が物顔で腰を下ろすと真っ赤に熟れたスイカに手を伸ばした。

「甘ーーッ! うめぇっ!!」

「風呂上りのスイカは最高だよなー」

 豪快にスイカに齧り付く祐二に、貴俊の父が目尻を下げて笑う。

 生まれた頃から互いの家を行き来しているせいか、他人の家なのにまるで自分の家のような居場所がある。

 家族団らんの場に、何の違和感もなく入ることが出来て、実は実家よりも居心地が良い。

 理由はもちろん、口煩い(実の)母親がいない上に、エアコン付け放題だからだ。

(エアコン嫌いとか、マジありえねぇ)

 実家にはエアコンがあるものの、母親のエアコン嫌いという理由で、動くのは特別(来客がある)な時だけ、おまけに自分の部屋のエアコンは壊れたまま、買い換えて貰えていない。

(思い出しても腹が立つ……)

 エアコンが壊れたから買い換えて欲しいと、当然の主張をした祐二に対して、母親は涼しい顔をしてこう答えた。

「今度のテストで、50番以内に入ったら、最新のエアコン買ってあげるわよー」

 と、高笑いをしたのだ。

(あのババァ……絶対に無理な要求してきやがって)

 貴俊の成績が上の上だとしたら、自分の成績は良くて中の下、いつもは下の上というのが定位置。

 50番なんて夢のまた夢だ。

 エアコンの件といい、今日の門限のことといい、いっそのことこのまま貴俊の家の子になりたいと本気で思う。

「じゃあ、俺も風呂入って来るね」

 入れ替わるように貴俊が立ち上がった。
 スイカに夢中になっている祐二は、返事もしなかったが何かを思い出したように慌てて顔を上げた。

「エアコン付けたか!?」

「うん。もう冷えてるんじゃないかな」

 リビングを出て行こうとしていた貴俊を呼び止め、一番大切なことを確認した祐二は満足そうに頷いた。

(やっぱり俺にとってココは安息の地だ)

 貴俊の家の子になるのは無理でも、いっそのこと夏が終わるまで、貴俊の家に入り浸ってしまうのも一つ手だと思っているのだが……。

「寝る時には、切らないとダメよ」

 貴俊の母がチクリと釘を差してくる。

(う……、まただ)

 最近は貴俊の母も、自分の母親と変わらず一言多い。

 遠慮がなくなっているからか、自分の母親から何か言われているか、理由は分からないけれど、これはかなりよくない傾向だ。

「分かってるー。さてとー、アイス、アイスー!」

 こういう時は逃げるが勝ちと、祐二は残りのスイカを急いで食べ終えて立ち上がった。

「んじゃ、ごちそうさまー! おやすみー!」

 冷蔵庫へ向かっていると、逃げるのが分かったのか、二人の笑い声が聞こえてくる。

「明日の朝はホットケーキよ。寝坊しちゃダメよー」

「ほーい!!」

 口煩さではまだ自分の母親の足元にも及ばない、これ以上ひどくならないことを祈りつつ、アイス片手に階段を駆け上がった。

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