『番外編』
温もり【6】
――あの頃はまだ初々しかったなぁ。
昔のことを思い出しながら長い時間ベランダにいたせいか冷えてしまった体を震わせた。
ベッドに戻ると眠っていると思っていた陸に抱き寄せられた。
「カラダ……冷えてる」
体を温めるように陸の手は何度も背中を往復した。
陸の暖かい胸の中にすっぽり収まるとゆっくりと力強い鼓動が伝わってくる。
「陸……好き」
胸に顔を寄せて陸の背中に腕を回しながら呟く。
陸の手に髪を優しく撫でられていると眠気が襲ってきた。
「麻衣が腕の中にいるのが一番安心する。ホッとしてよく眠れるんだ」
ウトウトしながら聞こえてきた声に小さく頷いた。
あの頃の感じた初々しいドキドキを今感じることは少なくなった。
もちろん小さな不安も感じることは少なくなった。
毎日が穏やかに過ぎていく中で二人の関係が安定期に入って来たという事かもしれない。
ドキドキがないからトキメキがないという人もいる。
安定期じゃなくて倦怠期では?と思われるかもしれない。
けれど私達には互いが側にいることで感じられる安心感は何事にも代えがたい。
陸があの日私の温もりを求めてくれたように今は私も陸の温もりを求めて今日も優しい腕の中で小さな寝息を立てる。
end
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