『番外編』
Another one64

 深く息を吐いた後、身体を重ねたままの陸は、しばらく動こうとはしなかった。

 二人の息づかいしか聞こえない部屋で、身体を起こした陸に、麻衣は口を開きかけて止めた。

「……ごめん」

 泣きそうな顔をしているような気がしたけれど、身体から出ていった陸に、すぐに背を向けられてしまった。

(謝ることなんてないのに……)

 こういう時の男の人の気持ちはよく分からないけれど、背中を向けた陸の後ろ姿を見ているのは少し複雑。

 変な言葉を掛けてしまったら、陸を傷つけてしまうんじゃないかと思うと、少し怖いと思うに、黙って待っていることも出来ず身体を起こした。

 ソファベッドに腰掛けている陸の後ろにすり寄り、背中に手を伸ばしてもたれた。

 陸は身体をビクッとさせたけれど、何も言わず俯いたまま動かなかった。

 折角の夜なのに、こんな風に背を向けられているのは辛い。

「陸、あのね……」

「ごめんね! 久しぶりだったからなー。麻衣を気持ち良くしてあげる前に達っちゃったよ」

 不自然なほど明るい声が、この場にはかなり不釣合いだった。

「大丈夫。すぐ次にいけるから、待ってて」

 再び小さな包みに手を伸ばそうとした陸の手を止めた。

「い、いいの。すぐきて?」

 言い出したことに驚いたのか、動きを止めた陸が慌てて振り返った。

「ちょっと待って! それって、そういう……意味? 何で急に、もしかして俺を慰めようとしてくれてる? あ……いや、えっと……そうじゃなくて」

 困惑してオロオロしている陸が可笑しい。

 実際に口に出した自分でさえ驚いているのだから、陸が驚くのは無理も無いと思う。

 慰めているつもりはなかったけれど、その時間を省いてでも早く欲しかった。

 はしたないと思う一方で、今夜は素敵な夜にしたいとも思う。

 気持ちを抑えずに、今までの分を補うように陸でいっぱいになりたい。

「ダメ?」

「な、わけないっ! で、でも……ナマでしちゃったら、今日は外で出す自信ないよ。そしたら、ほら……赤ちゃんとか……」

 前の陸なら迷わず飛びついたようなこと、それなのに誠実な考えに驚いてしまった。

 変わっていないと思っていたのに、一年の間の成長を思わせる陸の言葉に、今度は恥ずかしくなった。

(あーもう、私なにやってるんだろう)

 あまりに情けなくて俯いてしまうと、何を思ったのか陸がいきなり正座をした。

「あー待って! 違う、違うよ、麻衣! 勘違いしないで! 俺はいいよ、っていうか前ほど金はないし、楽はさせてあげられないかもだし、まだ広い部屋に引っ越せないけど、それでも……麻衣と子供には苦労させない」

 暗い部屋のソファベッドの上、全裸で正座している姿は、傍から見たらかなり滑稽に違いない。

 でも本人は真剣そのもので、茶化したらいけないと思うのに、込み上げる笑いを我慢することは出来なかった。

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