『番外編』
Another one60

 今日はいつもより冷え込みが厳しく、確かに陸が文句を言いたくなるくらい着込んでいる。

 会わなかった時間が巻き戻るのは一瞬。

(やっぱり、陸は陸だ)

 唇を尖らせているのに、嬉しそうな顔をしている陸の頬へ手を伸ばした。

「脱がすのが大変なら、着たままエッチする?」

 こんな誘うような言葉、あの頃は恥ずかしくて言えなかった。

 自然と口から出たのは、自分も陸と同じ気持ちだから、恥ずかしいことに変わりはないけれど、抱き合いたいと思っているから。

「うーーーー、その申し出はすごく魅力的だけど、今日はね、麻衣のことを全部見たい」

 翻弄しようと思ったのに、倍にされて返された気分。

 頬に添えた手を取られ、指先に唇を寄せられたと思ったら、指先を口に含まれた。

(あ、舌が……)

 温かい舌が指先に絡められると恥ずかしいほど甘い吐息が口から零れてしまう。

「可愛い。じゃあ、脱ごっか。麻衣は上ね。下は俺が脱がせてあげる」

 逆らえるはずもなく、上着に手を伸ばすと、陸の手がスカートホックを外す。

 陸に視線を向けられながら、一枚ずつ脱いでいく毎に体が熱くなる。

 残ったのがいつもより時間を掛けて選んだ下着だけになったのに、陸はまだスカートしか脱がせていないことに気が付いた。

「陸?」

 何かあったのかと思って、身体を起こそうとした麻衣は、陸が不敵な笑みを浮かべるのを見て、動きを止めた。

「可愛いブラだね。初めて見る。可愛いっていうか、ちょっとセクシー。俺のために選んでくれた?」

「そ……そういうことは、思ってても言わないの!」

 陸のために新しく買ったわけじゃないけれど、この下着を選んだのはもちろん陸に見て欲しかったから。

 ただ、その真意を指摘されることはまた別の話。

 恥ずかしさで胸元を手で覆い、陸の視線から逃げるように身体を捩ると、陸の手がようやくタイツへと伸びた。

「あ、下もお揃いだ。ピンクで可愛いし、麻衣らしいけど……。うん、やっぱりレースはセクシーだな」

「か、感想はいいからっ」

「なんで? 言うよー。言わなくちゃ伝わらないでしょ? 俺がどれだけ麻衣が大好きで、どれだけ麻衣の身体を見て、ドキドキしてるのか」

 恥ずかしいと思うのに、ドキドキが伝染したみたいに、鼓動は信じられないほど早くなっていく。

 ゆっくり脱がす陸の手の動きも、焦れったく感じてしまう。

「今、気が付いたけど、タイツ脱がすのって結構やらしいね。少しずつ白い肌が見えるのってなんかエロイ」

 身体を捩ったままで横を向いているから、陸がどんな顔をして言っているのか分からない。
「バ、バカ……」

 今日の陸はいつもより饒舌で、まさかそれが緊張しているからだなんて、後で聞くまで思いもしなかった。

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