『番外編』
温もり【5】

 お風呂から上がって寝支度を済ませた私を陸は寝室まで手を引いて連れて行ってくれた。

 もう何度も上がった事のあるベッドなのに少し緊張が走った。

「緊張しすぎ」

 陸はパジャマの上から私の肩を突付いた。

 そんな事言われても困る。

 疲れてうたた寝というのは何度かあったけれどそれとは違う。

「こっち来て?」

 ベッドの中央辺りにいた陸は端でモジモジしている私に声を掛けた。

 陸は掛け布団を持ち上げて片方の腕は私の方へと投げ出し待っている。

「腕枕じゃ眠れない?」

「で、でも……重いし、腕が痺れちゃうかもしれないし……」

「平気。麻衣が隣にいるって実感出来る」

 嬉しそうな顔の陸につられるように私は陸の二の腕に頭を乗せた。

 居心地の良い場所を探して落ち着くと陸の手が梳くように私の髪を撫でる。

「麻衣、おやすみ」

「おやすみなさい」

 陸が額に唇を寄せると私は静かに目を閉じた。

 枕が変わったら眠れないというのとは縁のない私はあっという間に眠りに付いた。

 だが眠りは浅く夜中に目を覚ましてしまう。

 ぼんやりとしながら目を開けたが瞼は重くてしっかりと持ち上がらずウトウトとしかけていると向けられている視線に気付いた。

「……陸?」

「ごめんね。起こした?」

「ううん、眠れないの?」

 私を腕枕したまま体を起こしていた陸は私の顔を覗きこんでいた。

 今起きたばかりという感じは伝わっては来なくて長い時間起きているような感じがする。

「なんか……もったいなくて」

 言葉が意味が分からず首を傾げると陸は覆い被さるように私の額や頬にキスをした。

「麻衣の寝顔が可愛くてずっと見ていたい」

「だめ、ちゃんと寝て?」

「分かった、寝るよ。だから麻衣ももう一度おやすみ」

 優しい声で囁かれると私は再び深い眠りへと引き込まれてそのまま朝まで目を覚ますことはなかった。

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