『番外編』
Another one53
再び覆い被さるようにして身体を重ねる陸は麻衣の首筋に顔を埋め、甘い香りが立ち上るうなじに何度もキスをする。
吐息を小さく漏らす麻衣はわき腹を撫でていた手がゆっくり上がってくると一瞬だけ息を詰めた。
緩められた下着の下へと潜り込む手は少しだけヒヤリとするけれど、そんなことはすぐに気にならなくなるほど身体が熱くなっている。
「麻衣……」
名前を呼ぶ声が少し掠れている。
同じように名前を呼ぼうとした麻衣の口からは甘い吐息が零れる。
陸の手が柔らかい膨らみを包み、壊れ物に触れるような優しさで動いた。
「ん……ぅ」
マッサージするように動いていた手の平が離れ、指先がほんの一瞬掠めるように頂点に触れた。
膨らみの柔らかさとは逆に硬くなった先端は、たったそれだけでも震えるほど敏感になっている。
「……りくぅ」
自然と甘く蕩けるような声になって名前を呼ぶ麻衣に陸の動きが少しだけ荒くなる。
さっきは偶然のように触れた先端へ、今度は意志を持った指先が触れる。
人差し指がその硬さを確認するように優しく転がし、さらに硬さを増した先端は指先で挟まれる。
「あ……んっ」
「可愛い。もっと可愛い声、聞かせて」
誘惑するような声で囁いた陸は胸に触れていた手を離し、下着ごとシャツを捲くり上げると躊躇なく胸を露にさせた。
白い肌にほんのり色づいた部分、真ん中の先端は小さなさくらんぼのようにさらに美味しそうに色づいている。
陸はご馳走を目の前にした時のように喉を鳴らした。
舌先で触れようか、それとも唇で挟もうか、悩みながらゆっくり近付く陸は触れる寸前に麻衣の手で押し返された。
「麻衣!?」
ここまできてそれはない、と非難しようと顔を上げた陸は麻衣の表情を見て怪訝に思う。
さっきまで蕩けるような顔をしていた麻衣が何かを窺うように険しくなっている。
「麻衣、どうしたの?」
「シッ!!」
鋭い声に阻まれて思わず息を呑んだ。
部屋の外を窺うように麻衣が首を捻ってドアの方を見ている。
一体何があったのか分からないけれど、どんな不測の事態にも対応出来るようにと、陸は麻衣の上から下りた。
「嘘……」
「麻衣?」
「帰ってきた」
「帰ってきたって?」
言葉の意味がすぐに分からなかった陸だったが、飛び起きた麻衣が慌てて衣服を直す姿を見てハッとした。
自分がいる場所は麻衣の部屋だが、アパートではなく麻衣の実家だということ、そして実家では両親と一緒に暮らしている。
「ま……麻衣? まさかとは思うけど……」
「お父ちゃん達が帰ってきたの!!!」
陸は軽く眩暈がして、このまま気を失ってしまったらいいのにとさえ思ったのだった。
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