『番外編』
Another one52

 久しぶりに交わす濃厚な口付けに二人はあっという間に息を上げた。

 貪るという表現がしっくり来るほど動物的で本能のままに舌を絡めあう。

 まさぐるように麻衣の身体をかき抱く陸の手がベッドと身体の間に入り込み、背中を何度も往復させてから胸の締め付けを簡単に解いた。

 プツンと解けた締め付けに一瞬だけ強張った麻衣の身体に、激しかったキスが優しく宥めるように変わる。

「怖い?」

「う……ううん」

 陸と抱き合うことに怖さはない、ただ触れ合っていない時間が長かっただけに、幻滅させてしまうんじゃないかという心配の方が強かった。

 陸をがっかりさせてしまわないだろうか……。

 不安にさいなまれた麻衣はベッドのシーツに爪を立てた。

「麻衣、一人で悩まないで?」

「陸……」

「良いことも悪いことも、麻衣の思ってることはちゃんと教えて」

 小さなすれ違いがいくつも重なって起きた別れ話、それを一番辛く思っている陸の言葉は重く響いた。

 自分の気持ちを吐露することは時として裸になるよりも恥ずかしい。

 それでも麻衣はほんの少しの勇気さえ出せば実行出来ることも知っている。

「あのね」

「うん」

 これほどまでに陸の言葉が優しく胸に響いたことは今までなかったかもしれない。

 ときめきよりも安心感をくれる陸の声に麻衣は恥ずかしさを胸の奥に押し隠して打ち明けた。

「久しぶり、だから……がっかりしないでね?」

「がっかり?」

「だって、その……一年も経ってる、から」

 10代や20代の前半ならいざ知らず、自分はもう30代を目前にしている。

 どんなにあがいても少しずつ後退していく色々な部分、好きな異性に見られるのは恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだった。

「俺が麻衣に? そんなのあるわけないじゃん! 俺はすっげぇ麻衣に夢中なんだよ。まだ気付かないの?」

「……え?」

「俺が、どうなってるか。……分かんない?」

 陸に腰を押し付けられ、さらにその腰が揺れるように動くと、麻衣は身体の奥を刺激されたような衝撃が走った。

 腰に当たる硬いものが陸の分身であることは明白で、ただ抱き合ってキスしているだけで昂ぶっている陸に驚く視線を向けた。

「分かった?」

 頷いた麻衣に陸の表情ががらりと変わる。

 子供のような悪戯っぽい表情は消え、大人の色香を漂わせるように陸の瞳が濡れたように光る。

「麻衣が心配するのはもっと別のこと。一年振りだよ? 覚悟はいい?」

 覚悟……と言われて麻衣は記憶に残る陸の激しい愛を思い出す。

 思い出したところで今更ノーと言えるわけがない、たとえ言ったとしても陸が受け入れるはずもなかった。

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