『番外編』
Another one50

 長い長いキスを終えて、唇を離した陸は抱きしめていた腕を緩め、顔を上げて恥ずかしそうに微笑む麻衣の顔を覗き込んだ。

「ね……麻衣」

 言い出しにくそうな陸に首を傾げる麻衣は笑った。

「緊張、してる?」

「緊張っていうか……いや、うん……緊張してるのかな」

 久しぶりに会うせいなのか、こんな陸は珍しくて麻衣は改めて陸が年下なのだと感じる。

 再会して知る陸の新たな一面に嬉しく思っていると、言い出しにくそうな陸は声を潜めて囁いた。

「家の人、帰ってくる?」

「……?」

 言葉の意味が分からないと首を傾げた麻衣に陸はさらに言いにくそうにしながらもハッキリと口にした。

「エッチしたい、とか言ったら怒る?」

 一年振りの再会の感動も束の間、やっぱり目の前にいるのは私が好きになった陸なのだと麻衣はクスリと笑う。 

 しかも陸の率直な言葉は怒るに怒れない、自分から口にすることは恥ずかしいが自分も同じ気持ちだったのだからなおさらだ。

「こ……ここで?」

「ここでもいいけど……さすがに初めて来た家のリビングでやるっていうのは……」

「ち、違うっ! そういう意味じゃなくてっ!」

 陸の言葉に一瞬で頬を赤くした麻衣に、陸は声を立てて笑うと小さな麻衣の身体を思いっきり抱きしめた。

 腰に回された腕は思っていたより力強く、抱きしめるというより抱き上げられた麻衣は、浮いたつま先に思わず慌てて陸にしがみついた。

「すっげぇ、幸せっ!!」

「り、陸っ! 下ろしてっ!」

「前はこれが当たり前の生活で、麻衣がいなくなるなんて考えたことなかった。やっぱり俺には麻衣がいないとダメだ!!」

「わ、分かったから! 下ろしてっ!」

 暴れる麻衣をようやく床に下ろすと陸は、麻衣を腕に抱いたまま髪にキスをする。

 髪に触れた唇は額へこめかみへ、そして鼻先に小さくキスを落とした。

「麻衣の部屋、どこ?」

「二……二階」

「麻衣の部屋見てみたいな」

 その言葉の本当の意味を分からないはずもない。

 再会した当日に、しかも親と一緒に暮らす実家、以前の麻衣だったら間違いなく断わっていたはず。

 今はそんな事情や一年振りに抱き合う恥ずかしさを差し引いても、陸ともっと触れ合いたいという気持ちを抑えきれないでいた。

「麻ー衣?」

「……ん、こっち」

 優しい声で促されてようやく麻衣は返事をして陸の手を引いた。

 まるで耳元に心臓があるんじゃないかと思うほど鼓動がうるさくて、雲の上を歩いているんじゃないかと思うほど足元がふわふわする。

 気付かぬうちに力を込める手を陸は優しくそして頼りたくなる強さで握り返した。

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