『番外編』
Another one35
(俺のこと話した上で紹介してくれたんじゃなかったのかよ!!)
さっきから澄ました顔で座っている誠に苛立ち、たとえ恩人の顔を潰す事になってもこのまま席を立ってやろうかと思った。
(そういうところがガキだってんだよ)
頭の中のもう一人の自分の言葉に頭に上った血が下がっていく。
(そうだ……俺は若い、若いけど……若いからこそ……)
真っ直ぐ自分を見つめる竜と視線を合わせられずにいた陸は意を決したように顔を上げた。
ほんの少し前まではホストだった、それは変えようもない事実。
おまけに年はまだ22歳、今まで稼いだ金があったからこそ店を持つことが出来た、それが自分一人の力で出来たとは思わない。
場所選びから開業まで何だかんだとサポートしてくれた誠や彰光、最初の頃は小遣い程度しかないアルバイト代にも関わらず嫌がらず毎日来てくれた朱里。
支えられたからこそ今までやってこれた。
そんな自分はまだまだ半人前、こんな風にバカにされることは当然だ、むしろ最初から信用される方が怪しい。
(試されているのかもしれない……)
真っ直ぐ見つめる竜の視線は何も語らない、ただ楽しげな色を見せゆったりと紫煙を燻らせている。
(試されているならそれでいい。また誠さんにはバカだって言われるだろうな、でもここで小さくなるのは俺じゃない)
心の中でそう決めれば不思議と肩の力が抜けた。
「楽しいだけの仕事はないですから」
「ほお?」
ようやく発した陸の言葉に竜は意外そうに片眉を上げた。
「それに……ホストも花屋も同じです。お客様と接して何を求められているか、大切なのはそれを敏感に察知すること」
自分の父親が生きていたらきっとこれくらいの年齢だろう、そんな相手にこんな生意気な物言いはどうかと思った。
隣の誠がわずかに動揺を見せたのもそう思ったからだと分かったが、途中で止めるつもりはなかった。
「お客様の心を満たす事が出来て笑顔を見られる、どちらもとてもやりがいのある仕事です」
一気に口から出した言葉に初めて竜の顔が和らぐのを見た。
口元に穏やかな笑みを浮かべると同時に瞳からはさっきまでの楽しげな色が消えた。
吸いかけのタバコを灰皿で丁寧に消すとその手をおしぼりで拭い、それから再び陸に視線を戻しておもむろに口を開いた。
「仕事の話を始めようか」
「よ、よろしくお願いします!」
竜の言葉に素直に頭を下げた陸は隣に座る誠がホッと息を吐いたのを聞いた。
(サンキュ、誠さん)
まだまだ心配ばかりを掛けていることに心の中で礼の言葉を尽くす。
それから最初に依頼された仕事は、知り合いのスナックへのリニューアルオープンの祝いのアレンジメント。
その仕事がテストだということは明らかでかなり緊張したが、次の日には店(ホストクラブ)に飾るアレンジメントの依頼の電話が入り本格的な取引が始まった。
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