『番外編』
Another one29

 何か言いたそうな美咲に覆い被さるようにしてベッドに押し倒す。

 ベッドのスプリングが僅かに音を上げ、広げていた新聞はそのままベッドの下へと滑り落ちた。

「まだ時間あるんだろ?」

 シルクのパジャマ越しに身体のラインを辿りながら美咲の顔を覗き込むと冷ややかな視線を投げつける美咲と目が合った。

「子供の癇癪に付き合ってる暇はないわ」

「……ッ」

 言い当てられて返す言葉もない。

 自分がどんなに情けない顔をしているか分かるだけに余計に気まずく、そのまま美咲の肩に顔を埋めることしか出来なかった。

 こういう時に余計なことを決して言わない美咲の存在は自分にとっては救いだ。

 どのくらいの時間が経った頃だろうか、静かな時間が過ぎていくことでどうにか自分を取り戻した頃、それまでずっと黙っていた美咲が口を開いた。

「私達にはどうすることも出来ないわよ」

 それが陸とその彼女で美咲の親友でもある麻衣のことだとすぐに察した。

 確かに恋愛事に第三者が首を突っ込んだ所で解決出来る保証はない、むしろ事を悪化させる可能性の方が大きい。

(分かってんだけどな。自分がお節介だってこともな……)

 それでも可愛がってきた陸には幸せになって欲しい、その気持ちがどうしても二人の事から目を離させなかった。

「向こうはもうヨリ戻す気ねぇのか?」

「…………」

 別れた当初から美咲は決して麻衣の気持ちを誠や陸に伝えることはなかった。

 美咲が何かヒントをくれればこの状況が好転するんじゃないか、誠は常にそう思っているが決して口を開こうとはしない。

 無言が意味するものは何なのか。

「お前は……ヨリを戻さない方がいいと思うか?」

 敢えて聞き方を変えることで何か掴めないかと安直な方法ではあったが試しに聞いてみると少し考えてから美咲がゆっくりと答えた。

「どっちでも……麻衣が幸せだと思えるなら、どっちでもいいと私は思うわ」

(ってことは……幸せだと思えないから別れたってことか?)

 美咲の返事はますます混乱させるだけの結果になった。

 そもそも別れた原因は当人の陸ですらハッキリとしない、それが分かればもしかしたら陸にチャンスがあるかもしれない。

 真剣に悩んでいた誠は視線を感じて顔をあげると横目で自分を見ている美咲と目が合った。

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