『番外編』
Be My Valentine11
こういう問題は長引かせたくない、真子はその一心で切り出した。
「何で一緒にご飯食べたの?」
夫婦だからってそこまで干渉することに抵抗がある人もいるだろうけど、気になって気まずい思いを抱えたままでは、時間が経つにつれて間違いなく小さな亀裂が生じてしまいそうで怖い。
わだかまりは残したくなかった。
真剣な顔をして雅樹の顔を覗き込むと、呆れたのか諦めたのか、小さな溜息を吐いた雅樹がポケットから何か取り出した。
「なに?」
無言で差し出された箱にはピンクのリボンが掛けられている。
「長く付き合ってんのに、プレゼントとかしたことなかっただろ」
「それは……離れてたからでしょ? それに帰って来てくれた時に指輪、貰ったよ?」
「いいんだよ。やるつってんだから黙って受け取れ」
半ば強引に押し付けられて、手の中に納まった小さな箱のリボンを解いた。
箱の中から出て来たのはゴールドのネックレス、馬蹄にダイヤモンドが並んでいるデザイン。
「可愛い。ありがとう、雅樹。でも……どうして急にプレゼントなの? 誕生日でもないのに……」
「明日だろ、バレンタイン。向こうじゃ日本みたいな習慣はない。前に話しただろ」
「あ、そっか。で……一緒にご飯を食べた理由はコレで誤魔化されちゃった……とか?
「お前なぁ……。俺が選んでる時にたまたま会ったんだ。店に長居するのは耐えられなかったし、どういうのがいいのか聞いた。遅くなったから飯奢った、そん時の礼ってことで菓子を買った、以上。分かったか?」
聞けばなんてことない事情、雅樹らしいといえば雅樹らしい。
ホッとしたような力が抜けたような気持ちになりながら、箱からネックレスを取り出した。
「これは……彼女のお勧めだったの?」
「いや。ハートとか色の付いた石とか、もっと可愛いのがいい、って散々文句を言われたが、俺はそれが気に入った」
その時の光景が目に浮かぶ。
きっと仏頂面でショーケースを覗き込みながら、店員と彼女からアレはコレはと勧められて、間違いなく眉間の皺は名刺が挟めるくらい深くなっていたはず。
(雅樹が選んでくれた物で良かった)
プレゼントしたいという気持ちは同じだけれど、勧められるまま買うのと自分で選んでくれたものでは、やはり受け取るときの気持ちが違った。
「ありがとね。すごく嬉しい」
「ああ、機嫌も直ったみたいだな」
「雅樹がこれ付けてくれたらもっと機嫌良くなるんだけどなぁ」
さすがに調子に乗りすぎたらしい、雅樹に心底嫌そうな顔をして睨まれてしまった。
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