『番外編』
温もり【2】

 付き合い始めてから陸の仕事が休みの日は夕飯を作りに行くようになった。

 その日も陸の部屋で夕飯を作った。

 夏が終わり開けた窓から入る風も少し秋が近付いた心地良く感じる。

 後片付けを済ませテレビを見ていた私は21時を回ると帰り支度を始めた。

「もう、帰る?」

「うん。明日も仕事あるから」

 床に足を投げ出してテレビを見ていた陸は立ち上がると持って来た荷物をまとめている私の側へとやってきた。

 畳んだエプロンを鞄の中にしまう私の手を陸が掴んだ。

「陸?」

 顔を上げるといつになく真剣な表情の陸が真っ直ぐ私を見ている。

 ど、どうしたのかな……。

 その真剣な眼差しと強く握った手にドキッとする。

「……泊まっていかない?」

 後にして思えば陸らしくないぎこちない誘い方だった。

 私は一瞬キョトンとしたがすぐに困ったような笑みを浮かべた。

「明日、仕事だから」

「うちから行けばいいよ。俺、送ってもいいし」

「……で、でも着替えとか持ってないし」

 突然の誘いで戸惑ったけれど本当は嬉しかった。

 けれど仕事帰りに寄ったし同じ服で出勤する事には抵抗があった。

 会社の女の子達はそういう所には特に目ざとい。

 それに大きな理由がもう一つ……。

「――ん、分かった。送ってく」

 少しの間考えていた陸はボソッと呟くような返事をした。

 握っていた手を離すと鍵や財布を手に取り「送ってくよ」と言われた。

 なんか勘違いさせてしまったかもしれない。

 そう思っても何て言っていいのか分からずに陸の後ろを歩き部屋を出た。

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