『番外編』
Another one27

(な……んで……)

 携帯の明るい画面に映し出された待受け画面、よく知っている顔がカメラ目線で笑っている。

「これ……ッ」

 陸は思わず女性の持っている携帯を両手で掴んだ。

「え……あ、あの……」

「この……この……」

 女性は陸の視線が待受け画面に向けられていることに気付いたのか、「ああ」と小さく声を漏らして納得したのか笑顔を見せた。

「なんか昔のアイドルかなんかなのかなぁ? すっごい好きだったらしいんですよー! お花屋さん、知ってるんですか?」

「あ……いや……知ってる、というか……」

(知ってるも何も……)

 それは紛れもなく自分の顔。

 まだ付き合うことになる前に、ヤキモチ半分で自分の顔を待ち受けにしたから忘れるはずがない。

 ブツブツと文句を言っていた麻衣も結局は待受けを元に戻すことはしなかった。

 もう疑いようもない。

 この携帯は麻衣のもので、この女性は麻衣と同じ職場で働いている。

 そして自分を振ったはずの麻衣の携帯には依然として自分の顔が待受けにされている。

(麻衣……どうして……)

 理由なんて分からないが今でも麻衣の中に自分のことが残っている、それだけは確信出来た陸は喜びからか身体を震わせた。

「この……この携帯の持ち……」

「店長ー! お客さんですよーーっ」

 女性に問い詰めようと陸が口を開くと同時に店の外から朱里の大きな声が飛び込んできた。

 その声で反射的に携帯から手を離し意識を店の外に向けると、数日前に見たばかりの長身の人影が店の入り口をくぐった。

「少しいいか、陸」

 入って来た誠は今日もきっちりスーツを着込んでいる、彰光の姿は店の中からは見えないがきっと店の外にいることは間違いない。

「忙しいんで後にしてもらえますか?」

(誠さんなんかに構ってる場合じゃない……今は麻衣の情報を聞き出して……それから、それから……)

 いつもの調子で邪険に誠を追い返そうとした陸はすぐに誠から女性に視線を戻そうとした。

「陸、ビジネスの話だ」

「だから……今忙しいって! 後にして下さいよっ!」

 帰ろうとしない誠に陸は苛立ちを抑えきれず声を荒げた。

「え、えーっと……じゃあ、これ頂いていきますねぇ……」

「待……ッ」

 女性は不穏な空気を感じ取ったのか、アレンジメントを手にすると足早に店を出て行こうとする。

(まだ麻衣のことが何も聞けていないのに!!)

 慌てて女性の後を追おうとした陸は誠に肩を掴まれた。

「離せって! 麻衣が……麻衣が……今の子の側に麻衣がいるんだよっ!」

 強く掴んでいる手を振りほどこうと陸は激しく身体を揺すった。

(これを逃したらもう麻衣とは出会えないかもしれない……)

 再び麻衣と出会える手かがり、一年ずっと追い求めて来た麻衣の姿まであと一歩で手が届く。

 そう思うと居ても立ってもいられない。

「陸ッ!! いい加減にしろッ!!」

 激しく叱責する声と共に誠の手が陸の頬を強く打った。

「な……」

 鋭い痛みの後にジンジンと焼けるように熱い頬、陸は叩かれた頬を手で押さえて誠の顔を上げた。

「遊びに来たんじゃない、仕事の話だ。お前はようやく叶えた自分の夢を中途半端に投げ出すつもりなのか?」

 誠の言葉に陸は追い掛けようとジタバタさせていた足を動かせなくなった。

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