『番外編』
Another one17
深紅のバラにかすみ草を散らした一抱えはありそうなほどの花束を手際よくまとめる陸を誠はため息交じりに見つめた。
「俺の店でナンバーワンだったとは思えねぇな。そんなダセェ男がうちのホストだったなんてな」
「…………」
誠の厳しい言葉に思わず手が止まった。
言い返す言葉も浮かばないのか、陸は黙ったまま花束に掛けたリボンをパチンと鋏で切った。
「俺の知っている中塚陸はもっとカッコイイ男だったよ。バカなくらい真っ直ぐで自分に正直で羨ましく思ってたよ」
誠は言いながら陸の後ろを通り過ぎ出口へと向かった。
陸は持っていた花束をテーブルの上に置いて手を付くと項垂れて苦しげな声を絞り出した。
「俺に……どうしろって言うんですか」
「聞かなくても最初から自分の中で答えは出てんだろ? だからわざわざ名古屋から離れたこんな場所に店を出したんだろうが」
「それは……店の客とかに知られて騒がれたりするのが嫌だからって言ったじゃないっすか、この眼鏡だってそういう意味で……」
「それなら別にここじゃなくても良かったんじゃねぇか?」
「たまたまいい物件があっただけですよ」
「嘘吐いてんじゃねぇぞ。他にもいい物件なんて山ほどあっただろうが! わざわざココを選んだ本当の理由から目を背けてんな!」
何もかも見透かされていることに返す言葉もない。
陸は歯痒さに奥歯を噛みしめて拳を強く握り締めていると、事務室から出て来た彰光に肩を叩かれた。
「そんな簡単に手離していいもんじゃないだろ? 物分かりよく身を引いてやるのがお前の“カッコイイ”か?」
「それは……」
「彼女の為なんてキレイゴト言うなよー。男ならそんなのもひっくるめて自分が幸せにしてやるって言ってやれよ」
彰光は握った拳を陸の左胸にトントンと叩きつける。
軽く叩かれただけだのに息苦しさを感じるような痛みに陸は顔をしかめた。
「このままじゃいつかお前のココがダメんなるぞー」
彰光が最後に力を込めてトンと叩いた胸を陸は自分の右手で押さえて軽く息を吐いた。
店を辞めてからも何度となくこうして自分の様子を見に来てくれる二人の気持ちが痛いほど伝わってくる。
それに応えたいと思ってもなかなか自分の中で決心が付かない、そして何よりこれまでずっと店のことで考える時間がなかったのも事実だ。
店を出て行こうとする二人に声を掛けた陸はテーブルに置いてあった大きな花束を差し出した。
「話は変わりますけど、売上に貢献して下さい」
「お前ねぇ……」
「いや……こっちも生活かかってるんで」
すっかり経営者の顔をするようになった陸に誠と彰光は顔を見合わせて笑いながら、出来あがったばかりの深紅のバラの花束とポインセチアを五つ購入して帰って行った。
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