『番外編』
Another one2
麻衣は捨てるために積んだ雑誌の山から適当にページをビリビリと破り取ると手の中で丸めた。
ゴルフボールくらいの大きさにギュッギュッと丸めてから、開け放した窓の前に立ち大きく身を乗り出した。
「えいっ!」
力いっぱい腕を振り上げて投げた紙のボールは数メートル先の窓ガラスにコツンと小さな音を立てて落ちた。
「んー……起きないかな」
何の反応がないことを見ると、麻衣はさっきよりも倍の枚数を破り、同じように念入りに丸めて出来たのは野球ボール大。
(これなら……大丈夫かな)
「奏ちゃーーーん! 起きてーーーっ!」
幼馴染で同い年の奏太がいるはず部屋の窓に向かって大きな声で呼びかける。
これで反応がなければ手の平に乗せた特製紙ボールを思いっきり窓ガラスに投げつけよう。
念入りに手の中で硬さを確認しながら奏太の反応を待った、だがしっかり締められたカーテンはピクリとも動かない。
(まだ寝てるの? ほっんとにお父ちゃんといい、奏ちゃんといい……)
「朝ですよーーーっ! 起きなさーーーい!」
中学生の頃は毎日のようにやっていた奏太専属の目覚まし時計の要領で声を張り上げるけれど何の反応もない。
「もう……しょうがないなぁ……」
麻衣は右手に握った紙ボールをしっかりと握り直し、大きく振りかぶった。
渾身の力を込めて投げた紙ボールは放物線を描くこともなく、窓に向かって一直線に飛んでいく。
「あっ!」
紙ボールの行方を見守っていた麻衣は突然開いた窓に思わず声を上げた。
手を離れたボールはいまさらどうにかすることも出来ず、声を上げたその後に紙ボールは窓から顔を出した人物の額に命中した。
「ッテェ!!」
紙で出来ているボールとはいえ、渾身の力を込めて投げたせいかかなりの威力があったらしい。
額を押さえながら蹲る姿に麻衣は恐る恐る声を掛けた。
「奏ちゃん、大……丈夫?」
「おいっ、鼻ペチャ! 朝からケンカ売ってんのかぁ!?」
小さい頃の呼び名を口にしながら、奏太は赤くなった額を手で擦りながら紙のボールを投げ返した。
それを寸での所で交わした麻衣はヘラヘラっと笑顔を作った。
「ごめんごめん、それで模様替えしたいからすぐ来て?」
「おい、こら。朝っぱらから人を叩き起こしておいて言うセリフか? しかも全然心がこもってねぇだろうが」
「だってお父ちゃんが手伝ってくれないもん。女の子の腰は大事なの」
本当はそんなことこれっぽちも思っていないけれど、それらしく腰をさすってみせると奏太は煙草に火をつけながら鼻で笑った。
「バカ言え、男の腰の方が大事に決まってんだろうが」
「あーやだやだ。お父ちゃんと同じこと言うんだもん」
「社長と同じだなんて光栄だな」
奏太は嬉しそうに肩を揺らして笑った。
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