『番外編』
星に願いを8
渋々だったがようやく聞かされた理由に真子の頭には?マークがいくつも浮かぶ。
「……七夕。女はそういうの好きだって……星見せたら喜ぶって……」
いつもはハッキリ物を言う雅樹がボソボソと呟く間にも頭上では雲が流れて星が顔を覗かせている。
「七夕って明日じゃ……あ、もう日付変わってるから今日だ!!」
家を出る時にすでに1時を過ぎていたことを思い出しもう一度空を見上げる。
「七夕……星、いいものってこれのことだったんだ」
「テツのバカが勝手に言ったことだ。くだんねぇだろ、帰るぞ」
早口で捲くし立てる雅樹がバイクに戻ろうとするのを腕を掴んで引き止めた。
(くだらなくなんかないよ)
「嬉しい。すごく嬉しい」
「別にいいって、無理すんな」
「無理なんかしてない! 本当に嬉しいんだよ? だって七夕に雅樹と一緒に星見れたなんてほんと……すっごく、嬉しい」
織姫と彦星が一年に一度出会える特別な夜、いつもは厚い雲が覆ってしまうけれど今年は違う。
雲の切れ間から見える星はベガとアルタイルではないけれど、きっとこの空のどこかで出会っていると思うことが出来る。
特別な夜に好きな人と一緒に過ごせることが出来る幸せに頬と胸が熱くなった。
「な……んだよ。星ぐらいでそんなに喜んで、バッカじゃねぇの?」
「バカでもいいもん。すごく嬉しい……連れて来てくれて、ありがとう」
「……こんなことで喜ぶなら何度だって連れて来てやるよ」
「ほんとに?」
「ああ」
覗きこんだ雅樹の瞳に自分の顔が映りこむ、ゆっくり近付く力強い瞳が瞼に覆われると同時に唇が重なった。
熱い身体に抱きしめられながら蕩けそうな熱いキス、息苦しさを覚えながらも雅樹のシャツにしがみつく真子は決して自分から唇を離さなかった。
なぜか分からないけれど泣き出してしまいそうなほど恋しい気持ちに真子の心は掻き乱されていた。
「雅樹……」
「ああ?」
唇が離れても抱き合ったまま離れられず、真子は雅樹の胸に額を寄せて小さく小さく呟いた。
「もし……離れなくちゃいけなくなったら……」
感傷的な言葉だとすぐに気付いてそれ以上は続けられなかった。
(いつだってこんなに側にいてくれるのにそんなことあるわけないよね)
こんなに幸せなのにどうして不安なんかが顔を見せるのか分からない、でも一度芽生えてしまった不安を振り切ることは難しくシャツを掴む手が震えた。
「くだんねぇこと言ってるとココでやるぞ?」
「や、やるって……ッ」
不穏な言葉に慌てて顔を上げると悪戯っぽく笑った雅樹は軽く額を突き合せた。
「バーカ、冗談だよ。つか……最初に言っただろ、離れるなって。忘れてんじゃねぇぞ、バカ真子」
「うん、……うん、うん……ん」
今にも泣き出しそうな声で頷く真子に雅樹はさっきよりも優しいキスをする。
二人の上では雲が切れ小さな星たちが瞬く星空が広がっていた。
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