『番外編』
Lovers' quarrel【9】
「あん時結局さ……麻衣ってば店に顔も出さずに帰っちゃったんだよなぁ」
「だって……次の日仕事だったんだもん」
後ろから私を抱きしめていた陸はあの時の事を思い出したようでむくれた声を出しながら肩に顔を乗せたまま頬にキスする。
あの頃はまだ陸のマンションに泊まるような事はなかった。
初めてマンションに泊まったのはあれから少し経った頃だったはず。
「麻ー衣。好き、好き、好き……大好き」
チュ、チュッと音を立ててキスをした陸はあの時のように耳を甘噛みする。
「ちょっ……くすぐったい……」
「ね、あの時の続き……する?」
すっかりその気になった陸が耳たぶを口に含みながら熱っぽく囁いた。
耳に吐息が掛かると背中にゾクゾクと快感が走る。
あの頃と比べると今の陸ははっきりと愛情表現を示して何度も何度も私を好きだと囁く。
何千回、何万回と陸の口から囁かれた愛の言葉なのに私は今でも聞くたびにその声と真っ直ぐな瞳に心を奪われて体を熱くした。
きっともうこんなに好きになれる人はいない。
もちろん結婚するのだからそれは当たり前なのかもしれないけれど、出逢ったあの日や陸に好きだと言われた日の自分はこんなに陸の事を好きになるなんて思いもしなかった。
「ドラマ……続きは?」
「ドラマよりも麻衣が見たい」
「今も見てるのに?」
「違うよ、俺の手で少しずつ可愛くてエッチになっていく麻衣が見たい」
得意の甘い声で耳で囁く。
ホストの時とは少し違う甘い話し方はきっと私しか知らない。
囁くような低く甘い声は大人の男なのにどこか子供っぽさが残る甘えた話し方、大人と子供の両面を持ち合わせた陸の魅力を前にしたら口からは抵抗の言葉は出て来ない。
「ベッドがいい……」
明るいリビングは恥ずかしくて私が陸の首に手を回すと背中と膝の裏に手が添えられてフワッと体が浮き上がる。
自分から誘うようなセリフに陸はにやけた顔で額にキスをした。
赤くなった顔を見られないように陸の首筋に顔を埋めながらあの頃とはだいぶ変わった自分に少し恥ずかしさが込み上げる。
陸と出会って何よりも学んだこと、それは自分の気持ちに素直になること。
すべてをさらけ出すのは勇気がいるし怖かった。
でも八歳年下の陸はそのすべてを受け止めると大きな愛で私を包み込んでくれる。
素直な気持ちを陸にぶつけると陸の大きくて優しい気持ちが何倍にもなって返って来る事を私は知った。
「陸、大好き」
寝室へ向かう途中、陸の耳元で囁くとしがみついた陸の体がほんの少し熱くなった気がした。
end
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