『番外編』
Lovers' quarrel【7】
「キス、していい?」
「嫌……っ」
無理矢理奪ってキスすることくらい簡単に出来るけれど今はそんなことしたくない。
でもこんなに泣いている麻衣が可愛くて自分の為に泣いていると思ったらすごく愛しくて……どうしたらキス出来る?
俺、本当にキスしたいのは麻衣だけなんだ。
「キス、したい……」
「…………る、から嫌……」
「何?」
「他の人の口紅、付けたまま……嫌」
(しまった……)
拭いきれていなかった唇の端に付いた口紅をシャツの袖口で拭う。
白いシャツの袖に薄く付いた紅を見てもそれでも全部取れていないような気がしてスーツの袖口から出した白いシャツの袖で何度も何度も唇を拭った。
「……陸、もういいから」
「まだダメ……顔洗ってくる」
唇を拭う手を止めようと麻衣が俺の手を引っ張る。
それでも止める事は出来ず引っ張る麻衣の手を外そうと手を重ねると麻衣は逆に俺の手を握り締めた。
「ワガママ……言ってごめんね」
「違う、そうじゃない。俺に隙があったからいけないんだ……。本当に麻衣が好きだから、麻衣だけが好きなんだ」
「ううん……陸がホストだって分かって付き合ったんだからあれくらい平気にならなくちゃ……」
「違うって! 俺は仕事だからって麻衣以外の人とキスはしたくない」
「いいの。私は陸の仕事の足を引っ張りたくない」
「麻衣っ! 違うって言ってたんだろっ」
「陸こそっ! 仕事ならいいって言ってるでしょっ」
また言い合いになる俺と麻衣は視線を合わせたままプッと吹き出した。
泣き笑いになった麻衣の顔を見つめながら頬に手を添えると手の平が涙で濡れる。
こんなに愛しく思うのはどうしてだろう。
今までに付き合ってきた彼女の事はもちろん好きだった、けれど麻衣だけは何かが違う。
麻衣と出会ってからまるでジェットコースターにでも乗せられたように自分の感情が上がったり下がったりする。
時が経てば経つほど麻衣への想いが募るがそれがなぜか無性に嬉しく思えてくる。
きっともう麻衣のことは手放せないだろうなぁとボンヤリと思う。
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