『番外編』
Lovers' quarrel【6】
「麻衣、ちゃんと俺の話を聞けって」
「聞いてるわよっ!」
「じゃあ麻衣は俺が客とキスして喜んでると思ってんの?」
「それは……」
「俺がキスしたいって思うのは麻衣だけだ」
ようやく俺の言葉が届いたのか麻衣が暴れるのを止めた。
真っ直ぐ麻衣の瞳を見つめていると瞼が震え……徐々に涙が溢れて瞳が潤み始めた。
(あ……)
さっきまで怒っていた麻衣の顔が泣き顔に変わり始めると俺の心の中は後悔でいっぱいになる。
こんな風に泣かせるつもりはなかったのに……。
付き合い始めてから麻衣を泣かせてばかりいる、付き合い始める前だって麻衣は泣いてばかりいた。
自分がホストだから麻衣が普通の女の子よりも辛い思いをしているのは分かっているけれど、今この仕事を辞めるわけにはいかないからどうにか麻衣に理解して欲しいのに。
もう……無理なのかもしれない。
いつもは自信のある俺もさすがに不安になった。
「…………で」
「麻衣?」
「私以外の人と……キス、しないで……」
麻衣の瞳から溢れ出した涙が頬を伝い零れ落ちた。
強張っていた麻衣の体から力が抜けていくのが掴んでいた手を通して伝わってきた。
「麻衣、麻衣……泣かないで?」
麻衣の手首を離すと頬を伝う大粒の涙を指で拭った。
涙で濡れた瞳は縋るように俺を見上げると自由になった手で俺の胸を叩き始めた。
叩くというより拳を打ち付けるように胸に麻衣の手が振り下ろされる。
その手にはほとんど力が込められていないのか痛みはなかったけれど、振り下ろされる度に胸が苦しくなった。
けれど止めることはせずに麻衣の好きなようにさせた。
「陸の……ばかぁ……」
俺の胸を叩き続けていた麻衣の手が止まりようやく口を開く。
俯く麻衣の頬を両手で挟みこみながら持ち上げると睫も瞼も瞳も涙で濡れている。
泣き顔の麻衣がすごく可愛くていつもよりも愛しさが募った。
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