『番外編』
Lovers' quarrel【5】

「他の人にキスした唇で私にキスしないでっ!」

「麻衣、いい加減に……」

「私は他の女の子みたいにキスで誤魔化されないんだからっ!」

「何だよそれ……俺がいつキスで誤魔化したんだよっ!」

「今だって無理矢理キスしようとしたじゃない!」

「自分の女にキスすんのが悪いのかよっ」

 電灯の少ない寂しく小さな公園に二人の怒鳴り声が響く。

 激しく言い合っているせいか二人の呼吸が乱れていた。

「何が、自分の女よ……誰とでもキスするくせにっ!」

(埒が明かない……)

 さっきから話は堂々巡りを続けるばかりでちっとも終結を迎えそうにない。

 その間も時間はどんどん過ぎていった。

 早く店に戻らないといけない焦りから苛立ちは徐々に大きくなっていく。

 けどここで自分が怒って声を荒げても話が解決しない事は分かっている、俺は深呼吸をして少し気持ちを落ち着けてから口を開いた。

「あのさ、取りあえず後でゆっくり話しよう。俺まだ店に客待たせてるからさ」

「戻れば?」

 拍子抜けなくらい麻衣はあっさりと店に戻る事を承諾した。

 やっぱり自分の仕事を理解してくれているんだと少しホッとして怒りが治めながら時計を見た。

「まだ少し掛かるけど俺の部屋で待ってて? すぐに終わらせて帰るから」

「またお客さんにキスでもしてご機嫌取るんでしょ。私は帰るから」

 冷たい声で言い放ち麻衣は歩き始めた。

(なんだそれ……)

 麻衣は理解するどころから更に怒りが増したように見えた。

「ちょっと待てって!」

 歩き始めた麻衣の腕を乱暴に掴むと嫌がる麻衣を引きずるようにしながら公園の隅の目立たない所へと連れて行った。

「離してってば!」

「いい加減にしろよっ!」

 暴れる麻衣の手首を掴み近くにあった木に押さえつけた。

 今度もまた手を振り解こうと麻衣は暴れたが俺も本気を出して押さえつけているせいか麻衣の手はビクともしない。

 今度は離すつもりはなかった。

 ちゃんと麻衣に納得してもらわないと万一またあんな事が起きてしまった時にまた同じような事になってしまう。

 もう二度と麻衣以外とキスするつもりはこれっぽっちもない事を麻衣に分かって欲しい。

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