『番外編』
篠田兄弟【4】side祐二
どうしてこんなことになっているんだろう。
起きてすぐに理解出来なかった状況も頭の中がハッキリして来れば来るほどとんでもないことになっていると分かった。
「ま、雅兄……な、にしてんの?」
俺を跨ぐように膝立ちになっている雅則の手が俺の背中を撫でている。
「いやーお前の肌ってスベスベなんだなーって思って」
「ス、スベスベ?」
「そうそう、スベスベ。女の子よりも触り心地がいんじゃねぇ?」
そう言うとますます機嫌が良くなって鼻歌交じりで俺の体を楽しそうに触る。
(な、なんでこんな……)
自分がとんでもない状況にいることは分かっても、雅則がどうしてこんなことをしているのかそれが理解出来ずに体は固まったまま動けない。
真面目で優等生な貴俊に比べて雅則はちょっとくだけててお調子者、それでも勉強だってスポーツだって人よりも出来るちょっと憧れの存在だった。
自分にとっては兄貴的存在と思っていた。
(ま、まさか……)
「雅兄?」
「んー?」
「ホ、ホモ……だったのか?」
確認せずにはいられない疑問を口にすると雅則の手がようやく止まる。
至近距離で見つめ合ったまま、時間の感覚がなくて分からないけれどかなり長い時間そのままで居た。
雅則がニヤッと笑う、その顔が悪だくみをしている時の貴俊にそっくりで嫌な予感がした。
「お、俺……べ、便所……」
ここに居てはいけないと何かが訴えるのを素直に聞き入れて、雅則から逃げるようにベッドから出ようとした。
体の向きを変えた途端、顔の直ぐ横に雅則の手が下りて来る。
「え……」
顔の両横に手を付いて俺の体を跨いだままの雅則の顔がゆっくりと近付いてくる。
「な、な……なに? お、俺……お、おおおおおしっこ……」
「俺がホモだったらお前どーすんの?」
「おおおおおしっこ……」
「このままエッチなことされてもオッケー?」
「お、おおおおおお……」
囁き声に変わりゆっくり下りてくる顔。
自分の声が相手に届いているかはかなり疑問、それでもこれ以上されたら絶対ヤバイと全身が訴える。
「取りあえず俺だけ裸ってのもアレだしな、お前も脱げー」
「ちょ、ちょっと! たんまっ! ストップ、ストップ! マジで、マジで、マジでっ!」
いきなり着ていたタンクトップに手を掛けられてハッと我に返った。
雅則とどうこうということも問題だけれど、それよりももっと大きな問題がある。
「なんでー?」
「何でって……そりゃあの……こんな……」
「貴俊に見られたら困るー?」
「そ、そりゃ……」
困るに決まっている。
こんな所を見られたらあの貴俊がどんな暴走列車になるか想像もつかない。
「そっかぁ。でも、もう遅いかもな」
「えっ……」
怖ろしいことを口にする雅則に驚いている暇もなく部屋のドアは開かれた。
静かに開かれたドア、言葉はなくともそこに誰が立っているのか分る。
俺はまるで壊れたロボットが首を動かすみたいにぎこちない動きでドアの方を見た。
「二人で何をしてるのかな?」
ニッコリ笑う貴俊の口からは棒読みの感情のない言葉が放たれた。
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