『番外編』
篠田兄弟【2】side雅則
道端で干からびる前にどうにか家に着いた俺は風呂場に直行してシャワーを浴びた。
冷たい水で胃を満たしている間に電子レンジが温めた二段積みのホットケーキをあっという間に平らげると今度は心地よい睡魔が襲って来た。
「バイトまで時間あるし、少し寝るかなー」
新たに水のペットボトルを取り出してから自室のある二階へと上がった俺は自分の部屋の前で立ち止まって振り返る。
向かい合わせにあるドアは貴俊の部屋、アイツの性格らしくきっちり閉められている。
「アイツの靴はないけど、あのサンダルがあるってことは……」
ふむ、と少し考えて身体の向きを変えて反対側のドアノブを掴んだ。
ノックもせずにドアを開けるのはいつものこととばかりに当たり前の顔をしてドアを開ける、わずかに出来た隙間から心地よい冷気が廊下へと流れ出た。
(おいおい……冷蔵庫かよ)
そう思わずにはいられないほどの冷えっぷり。
けれどまだ熱が取れていない身体には心地よく、素早く隙間からすべり込んでドアを閉めた。
「やっぱり……」
ベッドを見て思わず声が漏れた。
まるで猫のように背中を丸めて寝息を立てているのは隣りの家に住む東雲祐二、貴俊とは同い年で本当の兄弟のよりも年中べったりくっついている。
(また泊めたのか、やるねアイツも……)
きっと貴俊が出掛ける時に掛けていっただろうタオルケットは祐二の足元で丸くなっている。
タンクトップにハーフパンツという格好、しかも冷え切った部屋で腹を出して寝ているのを見れば貴俊じゃなくても風邪を引かないか心配になる。
「お前は昔っから手が掛かるね」
貴俊といつも一緒にいるせいか祐二も自分の弟みたいなものだ、しかも祐二はバカで単純で元気が良いから本当の意味で可愛がりたくなる。
俺は丸くなったタオルケットを掛けてやろうと引っ張り上げたがあるものが目に付いて手を止めた。
「おぉ……マジかよ」
それはタンクトップが捲れ剥き出しの背中に散った赤い痕、それなりに経験のある自分じゃなくてもそれが虫刺されの痕じゃないことくらい想像出来た。
よく見れば広い襟ぐりから覗く胸元や首筋にも濃い痕が付いている。
(そっちの方は淡白かと思ってたけど……)
二人の関係に気付いたのは夏休みに入る少し前、貴俊は相変わらず澄ました顔をしていたけれど滲み出る喜びは隠し切れてないし祐二は明かに挙動不審。
貴俊の祐二に対する気持ちはそれよりもずっと前、たぶん貴俊が祐二を幼なじみではなく恋愛の対象として見始めた頃から気付いていた。
絶対にノンケと言い切れる祐二を好きになるなんて我が弟ながらバカで可哀相だなと思っていた、いつかそのことに気が付いて優等生の貴俊なら諦めるだろうなんて思っていた俺をアイツはいい意味で裏切った。
どんな手を使ったのか知らないけれど気付いたら二人は恋人同士。
兄貴としては弟と弟みたいに可愛がって奴が恋人ってぶっちゃけどうなの? とは思ったけれどあんな嬉しそうな貴俊の顔を見ればまぁそれでもいいかもと思ってしまう。
「そんなに……いいのかね」
昨夜は激しく愛し合いました、と言わんばかりの情欲の痕。
経験は少ない方ではないけれど同性とはまだ未経験、その点では弟に先を越されてしまったわけだが……。
ぐっすり眠っている祐二の体をじっくり眺めた。
(どっちが挿れる方……って間違いなく貴俊だろうけど、女と比べてどっちがイイんだろう)
彼女が聞いたら頬を張飛ばされそうなことを思い浮かべながら祐二の背中に手を伸ばす。
「……んっ」
汗一つ掻いていない背中は思っていたよりもスベスベして気持ちがいい、ソッと肌を撫でるように指を動かすと寝ている祐二の口から普段の姿からは想像出来ないほど可愛い声が漏れた。
(これは……)
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