『番外編』
Lovers' quarrel【3】

 顔を離した俺を女の子はウットリとした表情をして見つめる。

 飴と鞭を使い分け明日の約束を取り付けて今月もナンバーワンの座の獲得に一歩近付いたなと頭の中でざっと計算する。

「気をつけて帰れよ」

 首にしがみ付く腕を解こうと伸ばした。

「――――ッ!?」

(クソッ……やられた)

 腕を解く前に背伸びをした女の子が素早く俺の唇を奪う。

 唇が触れていたのはほんの一瞬ですぐに唇は離れたが俺は憎らしげに女の子を睨みつけた。

「いい加減にしろよ、おまえなぁ。明日二百は用意して来いよ」

 念願のキスをしたせいか女の子は上機嫌で返事を返すと手を振りながら歩いて行く。

「チッ……最悪。俺がキスしたいのは麻衣だけなのに」

 姿が見えなくなるまで見送ると舌打ちして口紅の付いた唇を手の甲で拭いながら最近出来た彼女の顔を思い浮かべる。

 お互いに仕事をしているし自分が夜の仕事だから思うように会えないけれど出来るなら毎日でも会いたい。

 八歳も年上のなのに時々年下じゃないかと思うほど可愛い麻衣。

 今すぐ会いに行って抱きしめてキスをしたい。

 けれど指名客が中で待っている事を思い出して小さくため息をつきながら扉を引くと視線を感じて振り向いた。

「あ……」

 思わず間抜けな声が出る。

 数メートル先に麻衣が立っている。

 いつもなら嬉しいその姿だったがすぐに嫌な予感がして体に緊張が走った。

(見てた……よな)

 麻衣の表情を見れば聞かなくても一目瞭然だった。

 マズイと思った時にはもう麻衣は踵を返して走り出していた。

「くっそ……! 悪ぃ、ちょっと出て来るっ!」

「陸さんっ!?」

 開いた扉の隙間からフロントにいる人間に声を掛けるとすぐに麻衣の後ろ姿を追い掛けた。

 麻衣がどれほどの想いで自分を受け入れてくれたのか痛いほど分かっている。

 ホストである事で麻衣を傷付けてしまう事もあるかもしれないけれど少しでも麻衣にそんな想いをさせないようにと思っていたのに……。

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