『番外編』
やっぱラブもしたいでしょ【2】

 待つというのは実際の時間よりもすごく長く感じる。

 だから今こうして麻衣が言い出すのをものすごく長く感じているけれど実際はほんの数秒のことなのかもしれない。

 大人しく待って上げられたらいいのに、どうしても気になってしまい声を掛けようとした時だった。

「り、陸……あのね」

 ようやく決心したのか麻衣が顔が上げると俺を見上げて来た。

「お……かえり……」

「ん? ただいま?」

 また「おかえり」と言われて思わず俺も「ただいま」と返したが、そのやりとりは帰って来てすぐやったのにと俺は首を傾げそうになると麻衣がさらに続けた。

「ご飯にする? お……風呂にする? そ、それとも……わ、私?」

 最後は消えてしまいそうなほど小さな声、でも一言も聞き漏らさなかった。

(俺……夢見てんのか?)

 こっそり太ももを抓ってみたけれどしっかり痛い、ということはこれは間違いなく現実できっと俺の妄想じゃないはずで……。

 よもや麻衣の口からそんなセリフが出ると思ってもいなかった俺はすぐに声を出すことが出来なかった。

 放心状態の俺がようやく我に返ったのは少し不安そうな麻衣の瞳に気が付いた時だ。

「な……んか言ってよぉ」

 顔を真っ赤にして泣き出しそうな声を出す麻衣。

 持てるだけの勇気を振り絞ってしてくれたことだと言葉にしなくても十分伝わって来る。

(やべ……俺、理性とか飛ばしそう)

 今すぐ押し倒したいのをグッと堪えて、せっかく麻衣が用意してくれたサプライズにあやかることにした。

「すっごい腹減ってるんだ」

「あ……」

 俺の言葉に麻衣の表情が驚いて少し曇って、それから視線を落としてしまったけれど下唇を噛むのがチラッと見える。

(可愛い……そんなに顔、俺以外の誰にも見せないでね?)

「じゃ、じゃあ……ご飯の仕度すぐするね」

 声を震わせて俯いたまま体の向きを変えようとする麻衣、いつだって優しくしたいけどたまにこんな表情を見るとドキドキというよりゾクゾクする。

 背中を見せられるより早く俺は麻衣の体を抱きしめた。

「麻衣のこと食べてもいい? すっごい飢えてるの満たしてくれる?」

 ここのところはずっと二人で抱き合って眠るだけで、麻衣も仕事があるし俺も朝早いからと何となくそういうことは避けて来た。

 そのせいか急速に膨れ上がる欲情に喉の奥が乾くのを感じる。

「あ……え……」

 驚きの声を上げる麻衣、驚きつつも少しだけホッとしたような響きに聞こえるのは俺の思い込みかもしれない。

「食べさせてくれるなら顔上げて?」

 まだ俯いたままの麻衣の耳元に囁いた。

 ほんの少しの間があってから顔を上げた麻衣は俺にからかわれたと思ってるのか少し拗ねたような顔をしている。

 こんな顔を見ると麻衣が八歳年上なんてすぐに忘れてしまう、俺を誘って驚かせるくせに実はすごくウブで可愛くてでもお酒が入るとすっごいやらしくて……。

 もっと俺に夢中にさせたいって思うのに、麻衣を抱くたびに俺の方が夢中にさせられる。

 今だって麻衣から一瞬たりとも目が離せなくなっている。

「いたーだきます」

 わざとそんな風に言うと今度は小さく笑ってくれた。

 抱きしめている麻衣の体からも余分な力が抜けて、柔らかい麻衣の体は俺の腕に安心したように身を任せてくれる。

 両手で麻衣を抱きしめたまま、身長差を埋めるために体を屈めてからゆっくりキスをした。

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