『番外編』
雨が上がれば雨の記憶【2】
どうしよう……私のこと呆れて嫌いになったかもしれない。
こんなバカな私のことなんて面倒見切れないって思ってしまったかもしれない。
でも確かめる勇気もない、もしそこで最後通牒でも言い渡されたら……私。
考えがどんどん悪い方へ悪い方へと行けば行くほど涙の勢いは止まらず、堪えようと思っても堪えられずに私はとうとうしゃくり上げて泣き出した。
「真子」
また、困らせてる。
きっと泣いてる私を見てどうしていいか分からないって顔してるんだと思う。
高校生の頃もいつもそうだった、ケンカしては泣く私にいつも雅樹は腹立たしそうに困った顔をした。
きっと今もそんな顔をしてるはず……。
「なぁ、泣くなって……真子」
「ご、ごごご……ック、ッ、ク……ウッ、ク……」
「ったく……しょうがねぇな。ほんと泣き方まで昔のまんまかよ……」
頭を撫でられたと思ったらグイッと力が加わり私の顔は温かい場所に押し付けられた。
それが雅樹の胸だとすぐ気付き、どうしたらいいか戸惑っていると背中に回った雅樹の手が力強く抱きしめ二人の体が息苦しいほど密着した。
いつの間にか車を路肩に停めたらしく車内はとても静かになった。
「泣くなよ。……な? 大きな声出して悪かったよ」
違う、違うよ……悪いのは私の方だよ。
言葉には出来なくて私はどうにか首を横に振ってそれを伝えた。
「まぁ、元々悪いのはお前だけどな」
こういう所が雅樹らしくて、私はようやく涙が止まりかけると顔を上げた。
「ごめ……んね?」
「もう冗談でもあんなこと言うんじゃねぇぞ」
「うん、もう言わない」
自分は何て幸せ者なんだろうって思う。
こんな風に大事に思ってくれている人が守ってくれようとしてくれること、もっと私は雅樹のことも自分のことも大切にしなくちゃいけないと思った。
「ありがとう、雅樹」
「別に、それよりそのぶっさいくな顔何とかしろよ。鼻水でグチャグチャだぞ」
「ぶさいくって何! ぶさいくって!」
声を殺しながら笑う雅樹に鼻の頭を突付かれた私はズルズルッと遠慮なく鼻を啜りながら服の袖で涙を拭った。
「ガキみてぇ」
「雅樹ほどじゃないもんっ」
「どうして俺がガキなんだよ」
ようやくいつもの調子に戻った私はふとその前から雅樹が不機嫌だったことを思い出した。
「でも……」
ズズッと鼻を啜りながら切り出した。
「その前からずっと不機嫌だったよね? なんで?」
「そう……だったか?」
ぎこちなく視線を外された。
聞くまでもなく何かを誤魔化してるってバレバレの雅樹は胡散臭いほど窓から空なんて見上げてる。
「雅樹ー? まーさーきー?」
「何だよ」
無愛想な声、きっと他の人なら怒ってるのかと思うけど私にはちゃんと見分けがつくんだよ。
なんか照れくさいとか思ってる、これは推測なんかじゃなくて断言できる。
「どうして不機嫌だったの?」
「…………」
「まーさーきーー!!」
「あーもう……うるせぇな……」
トントンと肩を叩くと腹立たしそうに私の手を振り払いプイッと横を向いてしまった。
昔からちっとも変わってない。
だから私もそんな雅樹が次どうするかってことくらい簡単に予想出来てそれをジッと待った。
「あんま……他の男とベタベタすんな」
ボソボソと聞き取りくい声。
絶対理由を言ってくれるとは思っていたけれど、まさか本当に雅樹がヤキモチを妬いていたとは思わず驚いた。
でも……すごい嬉しい。
「雅樹……ヤキ――」
「言うなっ!」
「フフッ……フフフッ……」
「気持ち悪い笑い方すんなっ! さっさと帰るぞっ」
雅樹は乱暴に車を急発進させる。
私はマンションに着くまでの間何度も何度も雅樹に嫌そうな顔をされながら赤くなった横顔を眺めていた。
end
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