『番外編』
Lovers' quarrel【1】

「麻ー衣」

 呼ばれて振り返ると陸の唇が重なる。

 チュ、チュッと啄ばむようにキスをしてから唇を離すと満足そうにニッと笑ってテレビ画面に視線を戻した。

 陸は興味があってもなくても流行りのバラエティ番組やドラマを録画して欠かさず見ている、きっとそれは仕事でお客さんと会話に事欠かないためだと思う。

 休みの日は私を足の間に座らせ大きな抱きぬいぐるみを抱えるがごとく後ろから抱きしめて録画した物を消化していく。

 そして今みたいにCMになるたびに当たり前のようにキスをする。

 陸は昔からキスが好き、だと思う。

 出掛ける前や寝る前やもちろんエッチの最中も……とにかくキスをする。

 私も陸のキスが好き。

 陸のキスはとびきり甘いキスだから。

 今では挨拶代わりのようなキスだけれど付き合い始めたあの頃はこのキス一つであんなケンカをした事もあったんだよね。

 急に懐かしい記憶が蘇り思わず頬が緩む。

「麻衣、何……どうしたの?」

 どうやらドラマはシリアスなシーンだったらしく笑顔になった私を怪訝な顔をした陸が覗き込んだ。

 私は振り返りながら陸の肩に頭を乗せた。

 首元からは休日に陸が好んでつける香水がほのかに香る。

「あのね……キス」

「キス、したいの?」

 私の言葉に陸の頬が緩みすぐに顔が近付いて来るけれど私はそれを手で遮った。

 唇を手で押さえられた陸は少しガッカリしながら話の続きを促した。

「付き合い始めた頃、キスが原因でケンカしたよね?」

「あぁー……ってまだあんな事覚えてるの?」

「忘れませんもの」

「もう忘れてよ……」

 陸もすぐにあの出来事を思い出せたのか苦笑いになる。

 あれはまだ二人の間に不安とぎこちなさがあった付き合い始めた頃のお話。

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