『番外編』
初めてのバレンタイン【27】

「やっぱり帰るーーっ!!」

 一瞬でも和真の優しさにほだされそうになったかのこは首を横にブンブン振ったがテーブルの上の物が目の端に入りピタッと止めた。

(お……弁当?)

 テーブルの上に並べられていたのは和真が買って来たと思われるお弁当が二つ。

 それとグラスに注がれたお茶が二つ。

 キチッと並べられていていつでも食べられる用意が出来ていた。

「せっかく温めたのに冷めちまっただろうが」

「あ、あの……」

「腹、減ってるだろ」

 ソファから下りた和真はポカンとするかのこの頭を撫でると冷めてしまった弁当を持ってまたキッチンへと消えた。

 そんな和真を見たのは初めてでかのこは何だか居心地が悪くない。

(どうしよう……明日は大雪かもしれない)

 和真にいいように手玉に取られて精根尽き果てていたが、自分も何か手伝った方がいいのかと悩みウロウロして迷っている間に和真は戻って来た。

「何してる、座れ」

 弁当をテーブルの上に置きドカッと床に腰を下ろした和真に声を掛けられ、かのこはずっと突っ立っているわけにもいかず和真の横に腰を下ろした。

(なんか、逆に怖い……)

 温まった弁当の蓋を開ける和真にかのこは別の意味で恐怖を覚える。

 いつも色々してくれるけれどこんな風に至れり尽くせりの和真は見たことがなく、もしかしたらこれも何かの策の一端なのではないかと疑いたくなった。

(ダメダメダメ……私の心、荒んじゃってる)

 気持ちを切り替えるため食事に手を付けようと割り箸に手を伸ばすとそれより早く割り箸を手に取った和真は丁寧に割ってからかのこに握らせた。

「あ、あ……」

「なんだ?」

(怖いー! なに? 一体何がどうなってるの?)

「な、何でもない……です」

 誤魔化すかのこをクスッと笑い和真は床に置いたボトルを持ち上げた。

「せっかくだし、一杯飲むか?」

「で、でも……」

「弱い酒だからお前でも大丈夫だろう。一人で飲んでもつまらない、付き合えよ」

 ドンッと置かれたボトルにかのこはギョッとした。

 ラベルには『わかめ酒』と書かれている。

「そ、そ、それっ!!!」

「あぁ……徳島の酒らしいな。わかめ酒(シュ)というらしい」

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