『番外編』
初めてのバレンタイン【26】
「その年になって子供みたいに泣く奴があるか」
「だ、だって……グスッ」
ようやく泣き止んだかのこは目も鼻も真っ赤にしたまま和真の顔を見上げた。
(あれ……怒ってない?)
目の前の和真は呆れた顔をしているものの、怒っている素振りも見せず苦笑いをしてかのこの額を突付いた。
「お、怒ってないの?」
「何で怒らなきゃいけない?」
「だって……私……和真との約束……破って……」
「あぁ、多岐川だけならともかく真尋にまで聞くとはな。あんな見え透いた手に引っ掛かるとはさすが、かのこだな」
散々泣いてから素直に打ち明けたかのこに和真はこれ以上意地悪する気にもなれなかった。
クスクス笑う和真にどういう意味か分からずにかのこはポカンとした。
(手に……引っ掛かる?)
「ど……いう?」
「お前は本当にバカで可愛いな」
和真は足の間にかのこを座らせて腰を抱き寄せた。
ひどい言われようなのを分かっているかのこだったがその声がいつもよりも甘く優しく聞こえて反論することも忘れてた。
(ホントにズルイ……)
かのこはソファにゆったりと腰掛ける和真の胸に顔を伏せるようにもたれると髪に伸びた和真の指の心地良さに目を閉じた。
「機嫌は直ったか?」
「別に……怒って、ない……」
「そうだったな。泣くほど恥ずかしかっただけだな」
「だ、だってっ!」
心底楽しそうに肩を震わせて笑う和真にさすがにかのこも声を荒げた。
和真の胸に手を付いて体を起こすと苛立ちをぶつけるように拳を振り下ろした。
(もう! 本当に信じられないっ!)
すべてが自分をからかうためにやったことと分かっても、どうしても和真のことを憎めない、嫌いになれないかのこの振り下ろす拳は痛みを感じないほど優しいものでしかない。
「本当に俺があんなコトをしたいと思ったか?」
和真に「あんなコト」と耳の側で囁かれたかのこはうなじを真っ赤に染めた。
(和真なら……やりそうだったもの……)
真正直にそんなことを言っては本当にバカだとかのこは言いたい気持ちを何とか堪えた。
けれど和真にはすべてがお見通しなのか赤くなったかのこのうなじを撫でながら小さく笑い唇を耳に近づけた。
「そこまで勉強熱心なお前のために期待に応えるのも悪くないがな」
「――――ッ!?」
言い終わった和真に耳朶を舐められさらに顔を赤くするとかのこは和真から離れるために体を起こした。
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