『番外編』
初めてのバレンタイン【25】

「許してぇぇぇーー」

「出来ないぃぃぃ」

「私にはあんな恥ずかしいこと出来ないぃぃ……っっく! むりぃぃぃっ!」

 廊下をズルズルと引きずられながらかのこは喚いた。

 それでも和真の腕はかのこの腰に回されたままビクともせずリビングに着くと乱暴にソファに投げ出された。

「イッ……タァァァッ……」

 ソファの背にぶつけた後頭部をさすりながらかのこは体を起こす。

 だがその前に和真が体を跨ぐように乗りかかりそれを阻止した。

(や、やばいっ……これはもう完璧怒ってる!)

「何が出来ないって?」

「あぁぁぁ……えっとぉぉぉ」

「あんな恥ずかしいこと?」

 かのこの口走った言葉を繰り返す和真はいよいよ勝者の顔になった。

 もはや言い逃れは出来ないとかのこは恐る恐る口を開く。

「わ……わ……」

「わ?」

「わかめ……酒、でっ、できっ……なっ」

「ん?」

「恥ずっっ……しっ…………ウワァァァァン!」

 堪えていたものが溢れて堰を切ったように飛び出してきたのは涙だった。

 それが不安からとか恐怖からとか恥ずかしさからとか、泣きじゃくるかのこにはその理由が何だか分からなかった。

 けれど次から次へと込み上げる色々な感情は涙へと変わって頬を伝った。

「ったく……」

 和真は困ったように呟きながらかのこに手を伸ばした。

 顔に手を当てて声を上げて泣いていたかのこは和真に抱き起こされそうになってイヤイヤと体を激しく揺らした。

 激しく暴れるかのこの手が顔に当たる、だがそれを避けもせず顔を顰めるだけで抱き起こした。

「大人しくしろ」

 そう言った和真はかのこを膝の上に抱き上げて背中に手を回した。

 あやすようにポンポンと背中をたたくとしゃくり上げるかのこは和真の肩に顔を埋めた。

「少しやりすぎたか……」

 ポツリと呟いた和真の声はかのこの耳には届かなかった。

 まさかこんな風に泣き出すことはまったく予想していなかった和真はさすがにうろたえた。

 けれど久しぶりに抱きしめるかのこの温かさと身体の重みは愛おしくかのこの髪に顔を埋めながら少しだけ頬を緩ませた。

「ズズズズズーーッ」

 威勢のいい鼻の啜る音に苦笑いを浮べるが、和真はかのこを抱えながら泣き止むまで背中を撫で続けた。

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