『番外編』
My one and only lover.【9】
(真子、真子、真子……)
後から後から涙を流し頬を濡らす真子を見ていると愛しさが募る。
今すぐここで抱きしめてしまいたい気持ちを抑えながら手を伸ばした。
「泣くなよ。ったく…泣き虫だな」
頬を濡らす涙を指で拭った。
十年振りに真子の頬に触れた指が震えた。
あの頃は真子が隣に居て触れる事は当たり前だと思っていた。
いつでも真子は自分のそばにいて笑って手を伸ばせばすぐ触れられる距離にいた。
それが十年、十年もの間触れるどころか声も聞けず顔も見られずただ記憶の中の真子に手を伸ばす日々だった。
でも真子はここにいる。
「だっ、だって…」
「戻って来るって約束しただろ?」
しゃくりあげる真子に声を掛けて頭を撫でた。
茶色く染めた髪に触れあの頃と同じように真子の頭を撫でた。
聞いてもいいだろうか、確認してもいいだろうか。
こうして再び出会う日を待ち望んでいた事が自分だけではないという確かなものが欲しい俺は泣き続ける真子に声を掛けた。
「…待っててくれた?」
どんなに抑えても声が震えてしまう。
俺は固唾を呑んで真子の返事を待ちながら生きた心地がしなかった。
大きく目を見開いた真子は口を動かすがそれは言葉にならず俺の目を見つめたまま何度も何度も頷いた。
「…………ッ」
十年間の思いが報われた瞬間だった。
ようやく真子の元へ帰って来れた。
「ごめん…長いこと待たせてごめん」
十年間の真子への思いが上手く言葉に出来ず俺は歯痒かった。
それでも誰よりも何よりも大切な真子の元へ帰って来た喜びを隠すことが出来ずに口元を緩ませていると真子が突然大きな声を上げて泣き始めた。
まるで子供のように泣きじゃくる姿は注目を浴びた。
「店出よう」
真子の手を引いて店を出る。
昔と変わらない小さな手を引いて歩いているとまるで高校生だったあの頃に戻ったような気がした。
今、確かに真子はこの手の中にいる。
絶対に離さない、もう二度と離さない、もう誰にも傷つけさせない。
もう泣かせるような事はしないと俺はたった一人の愛する人に誓おう。
end
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