『番外編』
初めてのバレンタイン【17】
「でも……無愛想なくせに女の子の扱い上手いでしょ?」
「えっ?」
「デートとかプレゼントとか……結構ぬかりないんじゃない?」
「…………」
「あはは、図星かな?」
(その通りです……)
普段は優しい言葉なんかこれっぽちもかけないのに、イベントはもちろん普段のデートもいつも完璧にエスコートしてくれる。
恋愛初心者のかのことしては嬉しいけれど、どこか複雑な思いがあった。
きっと今までに色んな女性と付き合ってきたはず、それを今さらどうこう言ったところで仕方がないし今は自分を選んでくれているのだから自信を持ちたい。
でも、出来ることなら自分も和真を楽しませたり喜ばせてあげたいと思う。
(だから……バレンタインだって……)
かのこはハッとして真尋の顔を覗きこんだ。
「ま、真尋さんっ!」
「んー? いいねぇ、やっぱり本部長とか色気のない呼び方よりも全然いいよ。でも……真尋お兄ちゃんって呼んでくれたら何でも買ってあげるよぉ?」
幼い子をあやすように頭を撫でてニッコリする。
明らかにからかわれていることには目をつぶり、大人しく頭を撫でられながらかのこは口を開いた。
「聞きたいことがあるんですっ!」
和真はいつも色々と自分にしてくれる、口にしなくてもなぜか自分の欲しい物に気付きそれをさりげなく贈ってくれる。
最初は戸惑っていたけれど今は素直に嬉しいと思う。
だから……和真が欲しいと言っていた物を一人で用意して喜ばせてあげたい。
メールの一件以来、今日まで結局誰にも聞かなかったこと、和真の兄の真尋ならきっと知っているはずだし協力してくれるとかのこは確信した。
「どうしたの? そんな真剣な顔しちゃって」
「教えて欲しいことがあるんです」
「俺に分かることならいいよ」
「あの……わかめ酒ってどこに売ってるんですか?」
「――――――――わかめ酒?」
「はいっ! ご存知ないですか?」
「し、知ってるけど……売ってるというか何と言うか……でも、なんでまた急にそんな……」
「和真さんが飲んでみたいらしくて……バレンタイン、何も出来なかったから……その……こっそり用意して喜ばせてあげたいんですっ!」
「和真が……ねぇ。うん、そりゃ……こっそり用意したら驚く、いや……喜ぶだろうね」
真剣なかのこに対してなぜか真尋はいつになく落ち着かない態度を見せた。
けれどあまりに真剣なかのこの表情と和真が飲みたいという言葉に真尋の頭脳は一瞬にして悪巧み(嫌がらせ)をはじき出した。
「可愛い弟が飲みたいなら、俺も協力しないわけにいかないな!」
「ありがとうございますっ!」
かのこは喜びに顔を綻ばせて頭を下げる。
真尋は大切な秘密を打ち明けるように口元に手を当てると『わかめ酒』の真実を明かした。
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