『番外編』
My one and only lover.【8】

「みずくせぇんだよ!」

 十年振りにあった親友は頭を下げる俺を笑い飛ばした。

 日本に着いて自分が居た頃の面影がほとんどない事に驚きながら十年振りの実家へと帰った。

 両親に挨拶を済ませた俺はまず自分が暮らしていたアパートへ向かった。

 記憶を頼りに向かった場所は駐車場になっていた。

 あの頃は田んぼや空き地ばかりだったのにアパートやマンションが立ちすっかり変わってしまっている。

 それから電話を掛けた。

 まだ変わっていなかった番号にホッとしながら約束を取り付けると迷わずにそこへ向かった。

「ご無沙汰しています」

 頭を下げる俺に驚いた顔で口元を手で覆った真子の母親は嬉しそうに涙を流し、あの頃よりも年を取ったと一目で分かる真子の父親は何も言わずに俺の肩をポンポンと叩いた。

(やっと帰って来た……)

 まだ本当に会いたい人には会えていなかったけれど俺はそう思った。

 それから慌しい日が続き俺はようやくテツの協力でその時を迎える事になる。

 約束の時間に言われた場所へと向かうエレベーターの中で自分の体が震えている事に気が付いた。

 顔を合わせたというテツから聞かされた真子は酒を飲みタバコを吸うという、あの頃俺が煙を吹きかけるだけでもむせていた事を思い出して改めて十年の月日の流れを感じた。

 あの頃の面影は残っていないかもしれない。

 テツに指定された店の入り口に立った俺は気持ちを落ち着かせるように深呼吸すると店の中へと入った。

 店の中へ入るとちょうどこっちへ向かって歩いてくるテツの姿が見えた、俺とすれ違いざまに小さな声で囁いたテツはそのまま店を出て行った。

「泣くなよ?」

 からかうように言われた俺は舌打ちをしながら歩いていると懐かしい声を聞いた。

「てっちゃん!?」

(変わってない……)

 その懐かしい声の響きにテツに言われた言葉は正しいと認めるしかないらしい。

 鼻の奥がツンとするような違和感に堪えながら歩いていくとビックリした顔で真っ直ぐ俺を見ている姿が目に飛び込んだ。

(あぁ……真子だ)

 まるで幽霊でも見たような顔でジッと俺を見ている。

 制服こそ着ていないが十年前とほとんど変わらない姿の真子が目の前にいる。

「真子、ただいま」

 向かい合って座る真子の顔を長い時間見つめあの時の傷が綺麗に治っている事にホッとしながら十年間ずっと言いたくても言えなかった言葉をようやく口にした。

 目の前の真子の顔が泣き顔に変わる。

 十年振りに見る顔もやはり泣き顔だった、笑顔を見る事を望んでいたはずなのになぜかその顔を見てホッとした。

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